■衝動からはじまった恋の場合 (中編)■
 
 
 
 

小さな中庭で剣を振るう五右エ門を眺めながら、次元は大きく溜息をついた。
あれから進展どころか、あの夜の出来事は夢だったのではないかと思い始めるほど、五右エ門の様子はまったく変わらない。
どちらかといえば避けられていると思う。
五右エ門は決して次元とふたりきりになることをしなかった。
そうなりそうなときは何気ない態度で席を外したり、修行と称して外出したりした。
それにあれから指一本触れてない。セクシャルな意味ではなく、本当に触れることがないのだ。
いったん目覚めてしまった恋。はっきり言えば欲望である。
男として惚れた相手を前にしている状況でそれを押さえ込むのは難しい。
一歩の進展もなく、次元はジリジリと焦燥していた。
どうしてなのだろう。あの夜の五右エ門は決して嫌がっていなかったはずなのに。

「後悔しているように見えたんだろ」
よりにもよって次元はルパンに弱音を吐いてしまっていた。
それほどどうすればいいのかわからず、途方に暮れて弱っていたのだ。
もともとルパンは気がついていた節がある。
あの日、待ち合わせの場所にやって来たルパンは開口一番「楽しい夜だったみたいだな」とニヤニヤとして言ったのだ。
そのときは完全に無視したが、今はもうそんなことは言っていられなかった。
解決の糸口が見つかるなら、なにを言われたって、なにを知られたって構わない。
「やっぱりそうか」
出来るだけ避けたかった結論をあっさり指摘されて次元はガックリと肩を落とした。
五右エ門に『後悔しているのか』と聞かれたとき次元は否定しなかった。
そして、別れ際に『悪かったな』と声をかけた。
普通に考えれば、酔った勢いでの過ちで後悔の嵐だった。と思われても仕方ないのだ。
「自業自得だな」
「・・・言うな」
いくら戸惑っていたとはいえ、心底失敗したと思う。
後悔先に立たず。その言葉がピッタリだった。
地に潜りそうなくらい落ち込んでいる次元を気の毒気に眺めながら、ルパンは小さく溜息をついた。
「あのよ、俺からみれば昔っからおまえらは両想いよ?」
思いがけない言葉に次元はハッと顔をあげて、ルパンを探るように見た。
「おまえ、気づくの遅すぎ」
注がれる哀れみの視線。だが今は腹がたたない。
自分も気がつかなかった気持ちをルパンは気がついていたということは本当なのだろう。さすがカンの鋭い男である。
「言っとくけどさ。五右エ門はちゃんと自覚していたぜ?してなかったのはおまえだけ」
衝撃の事実だった。
驚きに目を見開き、口をポカーンと開けた次元を見て、ルパンは大きく溜息をついた。
「五右エ門ちゃん、かわいそ」
成就したかと思った途端、これは間違い後悔しています、と突き放されたのだ。
自覚してなかった次元と違い、五右エ門の落ち込みはいかばかりのものか。
ふたたびガックリと肩どころか頭も落とした不憫な男をルパンは眺めながら立ち上がった。
「とにかく当たって砕けろ、だろ」
のろのろと次元の顔があがる。心底情けない顔をしている。
「本当に五右エ門はかわいそうだったからなぁ」
ぐさり。胸がずっくりと痛んだ。
「俺には・・・そうは見えなかった」
「お前は自分のことでいっぱいいっぱいだったからな」
ルパンが窓の外に視線を移した。つられて次元も窓の外を見た。
一心不乱に剣を振り続けている男をふたりで眺める。
「とにかく愛の大告白をして、誤解をとくことだな」
「・・・とけるか?」
なんといっても頑なな侍だ。
一度突き放した手をふたたびとってくれるかどうか自信がない。
「それは次元、おまえの誠意次第だろ」
ルパンは車のキーを手にとると、ドアに向かって歩きはじめた。
とりあえずふたりきりにしてくれるらしい。
感謝の気持ちと、もう少し気持ちが落ち着くまではいて欲しいという気持ちが入り混じる。
ドアをあけ部屋から出ていきながらルパンはチラリと振り返った。
「言っとくけどな」
「・・・なんだ」
「無理やりヤルなよなー」
「すっ、するか!!!」
そんな余裕はない。というか、完全におちょくるような口調に次元はつい怒鳴り返した。
にゃははははーという笑い声を残し、ルパンはドアの向こうに消えた。

エンジン音が遠ざかるのを確認して次元は立ち上がった。
窓辺に近づき中庭にいる男をみつめる。
片肩を脱いで、一心不乱に剣を振るっている五右エ門。
一振りごとに汗が飛び散り、黒い髪が舞い上がる。
頬や首筋には後れ毛が汗で白い肌に張り付き、白黒の綺麗なコントラストをつくりだしている。
耳を澄ますと一定のリズムに乗って、荒い息遣いが聞こえてくる。
それらのすべてが、あの夜の出来事を次元の中にフラッシュバックさせた。

汗にまみれた白い肌と荒い息遣い。
シーツに散り乱れる黒い髪。

もう一度。いや何度でもあの躯を抱き、喘がせ縋り付かせたい。
今でも耳に残る『次元』と名を呼ぶ官能的な声。
ぞくぞくとした感覚が次元の背筋を駆け上がった。
あれっきりにするなんて冗談じゃない。絶対に逃さない、必ず手に入れてやる。
そんな決意を固め、次元はじっと五右エ門を見つめ続けた。

五右エ門が動きを止めた。
視線を感じたのか、ゆっくりと次元の方へ向き直る。
鋭く挑戦的な目で次元を見据える。次元は視線を逸らすことなく、それを真正面から受け取った。
暫くふたりは窓越しにじっと見つめ合った。
先に視線を逸らしたのは五右エ門だった。
顔をふいと背け斬鉄剣を鞘に収めると、そのまま裏口の方へ消えていった。
キイイと遠くでドアの軋む音が聞こえる。
足音はしないが廊下を歩く気配。それはリビングの外を通り抜け、そのままシャワールームへと消えていった。
しばらくそのまま佇んでいた次元だったが、意を決するとゆっくりとした足取りで五右エ門の後を追った。
 
 
 
 

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■JIGEN&LUPIN SOUDAN■
 

    
 
 
  
 ■なかがき■

次元、ドジ踏み男。
結局、2ヶ月間すれ違いの生殺し状態だったみたいです(^^)




 
 
 

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