■衝動からはじまった恋の場合 (後編)■
 
 
 
 

ドアを開くとシャアアアアという水音が響き渡り、むわっとした湿気に次元は包まれた。
「なんの用だ」
頭からシャワーを浴びながら、五右エ門が感情のない声で言った。
それは正しい質問だと思う。
シャワーを浴びている最中に乗り込んで来られるなんてことは普通はない。
頭の隅でそうぼんやりと思いながらも、視線も全神経もすべて目の前の光景に釘付けだった。
白い背中。肌に張り付く長い髪。締まった尻にスラリと伸びた足。
濡れて光る躯はなんともエロティックだ。
次元は服のままシャワールームに踏み込むと、濡れることも気にせず、後ろから五右エ門を抱きしめた。
五右エ門は驚いたように一瞬硬直し、すぐに腕を振り解こうと暴れだした。
させまいと次元は抱いた両腕に渾身の力を込めて抱き込む。肩に顎を乗せて上への動きも封じ込めた。
スーツはあっという間にずぶ濡れになり、次元の躯に張り付き重さを増した。
動き辛くなるも抱きしめた躯は離さない。
『悪かった』
そう言おうとして咄嗟に口を噤む。
あのときと同じ言葉だ。誤解のもとになってしまった忌々しい言葉。
だから今度こそ誤解を与えない間違いのない言葉を使わなくては、と思ったが、考える前に自然に口から言葉が洩れた。
「好きだ」
ぐっと両腕に力を込めて抱き寄せ、首筋に鼻先を突きこむ。
「好きだ、好きだ、おまえに心底惚れてるんだ」
耳元で繰り返し、思いの丈を込めて囁く。
逃げようとしぶとく抵抗を続けていた五右エ門の動きが止まった。
しばらくの沈黙のあと「悪かったと言ったではないか」と小さな呟きが返ってきた。
「無理させて、痛い思いをさせて、悪かったという意味だ」
頑なだった五右エ門が反応したのが嬉しくなり、もう間違えるものかと次元は畳み込むように言った。
抵抗をやめた躯を抱きしめ直す。ゆっくりと優しく包み込むように。
ふと次元は今自分が真っ裸の五右エ門を抱きしめているということを思い出した。
掌に触れる肌の手触り、鼻先を擽る髪の匂い、頬に触れる首筋の感触。
今はそんな場合じゃないと自分に言い聞かせるが、一度意識してしまうと止まらない。
あっという間に躯は五右エ門に反応した。
聞こえるのはお互いの息遣いと響き渡る水音。
水蒸気で熱せられたシャワールームでふたりは身じろぎひとつせず、じっと温水を頭から被りながら立ち尽くした。
暫くする五右エ門の腰がもじもじと逃げた。
「・・・押し付けるな」
言われて次元は自分のモノが堅くなっていることに気がついた。
ズボン越しとはいえ、それを五右エ門の裸の尻に押し付けていたのだ。
「惚れてるからな。裸のおまえを抱いて反応しないほど俺は枯れちゃいねぇ」
わざと腰を突き出し、逃げた尻にふたたび勃起したモノをぐりりと押し付けた。
五右エ門の躯がビクリと震える。
「今度は優しくする」
そう言った瞬間、五右エ門の両手が動き、拘束した次元の両手を弾いた。
気を抜いていた次元の腕は簡単に解けた。
だが、五右エ門は逃げる様子もなく、くるりと躯ごと振り向き、次元の真正面に向き直った。
「拙者は男だ」
「知ってる」
近距離の中、睨むように見つめあう。
「それでもおぬしは拙者に惚れていると申すのか」
「惚れてる」
五右エ門の顔がカアァと朱色に染まる。
それをみた次元は『かわいいな』と惚けたことを頭の片隅で思った。
「・・・優しくなど」
「ん?」
「優しくなどせずとも良い!」
そう叫ぶと五右エ門は噛み付くようなキスをしかけてきた。
突然のことに次元は驚き目を丸めたが、すぐに喜びが全身を包み込む。
壁に五右エ門の躯を押さえ込みながら乱暴なキスに応え、すぐに主導権をもぎりとると深く淫らに唇と舌を貪った。
味わいたかった五右エ門の味が口内を満たしていく興奮。
唾液を啜り、自分の口内に甘い舌を引き込んだ頃には、下肢に押し付けられた五右エ門のモノも立ち上がりはじめていた。
それに気がついた次元はどうしようもなく欲情した。
舌を絡めながら白い躯を両手で弄り刺激する。
股間に当たるモノの存在が堪らなくなり、直に触れようと下肢の手を伸ばした。
指先が触れるという瞬間、五右エ門の手によって進攻はとめられてしまった。
ようやく唇を離し、抗議するように五右エ門の顔をみると、責めるような戸惑うような色を乗せた潤んだ目が次元を真正面から見据えた。
「ここでする気か」
「止められねぇ」
ふたたび抱きしめようと手を伸ばすが、今後は胸板を両手で押し返された。
「優しくするのであろう」
「しなくっていいって言っただろう」
防御のために両手が塞がっているということは、下肢は無防備だということだ。
次元はすかさず手を伸ばし、掌で勃起したモノを優しく包み込んだ。
「っ!」
小さな呻きをあげて五右エ門が仰け反った。
同時に両腕から力が抜けて、次元の進攻を許してしまう。
ぴったりと前身を合わせ、次元はふたたび唇を奪おうとした。
「・・・次元」
顔を逸らしながら五右エ門が弱々しげに次元の名を呼ぶ。
「なんだ」
「せめて寝室で・・・頼む。このままではのぼせそうだ」
そういわれてようやく次元は五右エ門の顔が真っ赤であることに気がついた。
この蒸気の中だ。羞恥もあるだろうが半分以上はのぼせているんだろう。
じっくりと楽しむには確かにベッドに行った方がいい。
「俺はおまえにのぼせてるぜ」
そう耳元で囁くと、次元は無理やり自分の躯を五右エ門から引き剥がした。
このまま触れていたのではベッドまでも我慢できそうもない。
「キザな奴だ」
小さな呟きを背中に聞きながら、次元は脱衣所に戻るとびしょ濡れになった衣服を脱ぎはじめた。
張り付いた服は脱ぎにくく四苦八苦している隙に、五右エ門が逃げるように脇をすり抜けて脱衣所から出て行った。
「おい」
待てよ、と続けようとして、ドアを閉める寸前に投げられた流し目に次元は口を噤んだ。

急ぐ必要はない。
五右エ門は決して逃げない。
そして次元を寝室で待っている。

わかっていても躯が早く早くと次元を急かせる。
次元は大急ぎで服を脱ぎ捨てると、全裸のまま寝室へと向かった。
 
 
 
 

  

■JIGEN&GOEMON LOVE■
 

    
 
 
  
 ■あとがぎ■

馴れ初め的なお話でした。
そして、ちょっとすれ違い系。
両想いなのにすれ違いって萌えますよネ!
次元のヘタレによって引き起こされたすれ違いでしたが
一応頑張って誤解を解いたようです。
欲望丸出しのこの頑張り方が正しいのかどうかはわかりませんが(笑)

まるで続きがあるような終わり方ですが
続きはありません!(きっぱり)
続きは脳内補完でお願いします♪<コラ


 
 
 

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