なぜこんなことになったのかわからない。
仕事だと呼び出されて一足早く来てみれば、同じく早く着いたという五右エ門と鉢合わせた。
ひさびさの再会。
ふたりで酒を飲み、酒場を何件か梯子した挙句、なぜかホテルへ転がり込んだ。
男相手にとか、五右エ門相手にとか、そんなことは一欠けらも考えなかった。
頭を真っ白にして欲望の赴くまま、ガツガツと抱き合った。
色は白いが筋肉に覆われた硬い躯。漏れる声も低い男の声。
どこから見ても男だ。女的要素はひとつもない。それなのに。
股間に自分と同じモノがついているのを見ても、萎えるどころか反対に益々興奮した。
五右エ門も同じような状態だったと思う。
抵抗するどころか積極的に行為に及んできたのだから。
これがあのお堅い侍かと驚くほどだった。
そんな五右エ門の姿に更に煽られて夢中になってお互いの躯を弄りあった。
だが、いざ挿入しようとしたときに慌てた様子を見せていたから、そこまでするつもりはなかったのかもしれない。
もしかしたら五右エ門の方が次元をヤルつもりだったのかもしれない。
どちらにせよ、次元は止めるつもりはなかった。というよりもう止められなかった。
堅く蕾んだ場所をよくほぐすこともせず、我慢できなくなって無理やり捻り込んだ。
苦行に慣れていて、痛みや苦しみを表に出すことが少ない五右エ門の顔が苦痛に歪んだ。
辺りを漂う雄臭さの中に微かに血の匂いが混ざる。
痛いほど締めつけは堪らないほど気持ち良く、抜くつもりは更々なかったが、五右エ門の苦痛に耐える姿は次元の心に軽い罪悪感を湧き上がらせた。
合意の上でのセックスだ。
片方は快楽、片方は苦痛なんて不公平過ぎる。
お互い気持ちいいことが大切なのだ、こういうことは。
油断すれば勝手に動き出す腰を必死になって理性で押しとどめ、組み敷いた躯に丹念に愛撫を与えた。
首筋を舐め、乳首を擽り、躯中を弄る。
反応した場所を覚え執拗に攻め立てながら、半分萎えたモノをゆっくりと扱いた。
次第に苦しげだった息遣いに喘ぎが交ざり、手の中のモノが少しずつ勃起していくのが次元には嬉しかった。
ふたたび感じ始めた五右エ門の顔を観察しながら、腰と手の動きを連動させ、じっくりとしつこく攻め立てた。
五右エ門はシーツの上で黒髪を乱し白い躯を波打たせ、次元の手の中で2回達した。
次元も抜かないまま熱い体内に2度吐き出した。
汗だくで荒い息を吐き続ける五右エ門から己を抜き取ったあと、少し心配になってその場所を覗きみた。
くぷくぷと精液を溢れさせているソコは紅く腫れ上がっていたが、ヒクヒクと蠢く様があまりにも淫らで、罪悪感と興奮が交錯する中、労わるように舐め、しゃぶり、口の中でもう一度逝かせた。
五右エ門も苦痛だけじゃなくそれなりに満足したはずだと思う。
とにかく獣のようにガツガツとした、そして充実した濃い夜だった。
くたくたに疲れた躯をベッドに沈めそのまま眠ったが、翌朝目覚めたあとはお互い気まずかった。
仲間同士で肉体関係を結んだこと、その行為の意味も理由もまだ自覚できてなかったこともある。
それ以上に、筋肉痛と下肢の痛みで身じろぐ度に顔を顰める五右エ門をみて、ふたたび罪悪感を湧き上がったのだ。
ほとんど慣らしもせず突っ込んで、悪いことをした、性急すぎたと思った。だから。
気まずい沈黙のあとポソリと「後悔しておるのか」と問われたとき、ぐっと詰まってしまった。
なんと言っていいのかわからない。
謝ればいいのか、そうじゃないと言えばいいのか。
戸惑う気持ちが表情に出たのだろう、じっと顔をみつめていた五右エ門の眼にふっと何かの感情が浮かぶ。
それがなんなのか探る前に五右エ門は目を閉じ、再びシーツを引き上げて顔を背けた。
「拙者はまだ動けぬ。おぬしは先に行け」
「そういうわけには」
「ルパンが待っていよう。拙者はもう少し休んでいくから・・・先に行ってくれ」
確かに約束の時間はもうすぐだった。
少しくらい遅れても構わないし、こんな状態の五右エ門を置いてはいけないとは思ったが、この気まずい空気の中、一緒にいてもなんの役にも立たないような気がした。
とりあえず少し離れて落ち着かなければ、新しく築いてしまったこの関係のことを良く考えることはできそうもない。
そう結論づけると次元はとりあえず謝った。
「わかった。その・・・悪かったな」
男である五右エ門を抱いて無茶させて、そのうえ動けなくなるほど無理させたのだ。
その謝罪のつもりだった。そのときは。
次元は身なりを整えると、ベッドの中の五右エ門の背中を少し眺めて、部屋をあとにした。
閉じたドアに背を預け、はぁぁと大きく溜息をついたあと、次元はルパンとの約束の場所へ向かった。
あのときは動揺していたし、抱いた理由がわからなかった。
だから半分逃げるようにその場を離れたのだ。
ひとりになって、ただとにかく歩いて、頭を冷やした。
少しでも気を抜くと昨夜の五右エ門の姿が浮かび上がり、心臓と下半身に悪い。
案の定、ルパンはまだ来ていなかった。濃いコーヒーを頼んで煙草を燻らせながら、考え続けた。
そして出た結論。
たぶん、以前から次元は五右エ門のことをそういう目で見ていたのだ。
自覚はなかったが、今更ながら過去の自分の所業を思い出すと、それがすべて根本にあるような言動をとっていたことに気がついた。
男だから、仲間だからというリミッターが働いていて気がついていなかった。
いや、気がつくことを無意識に拒否していたのか。
だが、知らずに溜まったそれらの感情や衝動は、ひさびさに顔をみて肩を並べて、五右エ門の存在や体温、匂いを感じて一気に爆発した。暴発といった方が正しいかもしれない。
好きなのだ、たぶん。
いや違う。ずっと好きで抱きたかったのだ、絶対に。
自覚し、その結論に達したあと、ふと新たな疑問が脳裏に浮かび上がる。
では五右エ門は?あの男の気持ちはどうなのだろう。
肌を合わせるとき抵抗はしなかった。共に昂ぶり、激しく求め合った。
あのお堅い侍が遊びや一時の快楽を追うために、男とセックスするなんて有り得ない。
ということは、五右エ門も次元に対して同じ感情を持っているということではないか。
五右エ門にそういう意味で好かれている。
そう思った途端にカアアと躯が熱くなり、心臓がバクバクと胸板を叩き出した。
突然降りかかった幸運。自覚したときには成就していた恋に次元は舞い上がった。
この年で恋なんて言葉を使うのは青臭い気がしたが、今の感情にはその言葉がぴったりだった。
これから五右エ門とどうこの恋を育んでいくのか。
それに2度目はどう誘えばいいのか。
最初は勢いに任せて抱き合ったが、今度はもっとゆっくり時間をかけてあの躯を開いていきたい。
痛みは与えず快楽だけを感じさせて、五右エ門をめちゃくちゃに乱れさせ喘がせてやると次元は決心した。
それはもう2ヶ月前のこと。
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