■夢十夜 〜第八夜〜■
 
 
 

 
五右エ門は暗闇の中にひとり佇んでいた。
この場所はどこだろうと、ふと思う。
その途端に目の前に白いベットが現れた。
どくん、と心臓が鳴る。
これはまたあの夢だ。夢の続きの夢だ。
それを証明するかのように背後からゆっくりと抱きしめられる。
背中にあたる体温、躯に絡みつく逞しい腕。そして。
「五右エ門」
現実では聞いたことのない甘い声が名前を呼ぶ。
「・・・次元」
「抱きてぇ。抱かせてくれ」
後ろから耳朶を甘噛しながら息ごと言葉を耳に吹き込んでくる。
「なぜおぬしは拙者を抱きたいのだ」
この前の夢の終わりで次元は言った。
『この夢は俺の夢だ』と。
そんなはずがないことを五右エ門は知っていたが、その言葉は深く心に残った。
無意識に次元に抱かれたいと思っているとしか思えないこの夢。
だから問いかけても無駄だと知りつつも五右エ門は問うたのだ。
「わからねぇ。男なんてお断りなはずなのに・・・どうしてもお前に欲情しちまうんだ」
次元の手が着物の合わせ目から忍び込み、まだ柔らかい乳首を摘む。
「・・・っ」
微かな吐息を吐いた五右エ門の首筋に舌を這わせながら、指先で堅くなるまで揉みしだく。
片手で弄びつつ着物を肌蹴させ、現れた白い肩に次元は軽く歯を立てた。
「逃げねぇのか?」
抵抗を一切しない白い躯。
「これが拙者の望みならば抵抗しても無駄であろう?」
「五右エ門、これはお前の望みじゃねぇ。俺の望みなんだ」
夢の主は五右エ門で、この次元は自分に作り出された存在なのだ、その彼の望みであるはずはない。
自分はどうしてもこの願望を否定したいらしい。
そう思って五右エ門は小さく笑った。
途端に絡み付いていた腕が乱暴に動き、五右エ門はベットに押し倒された。
スプリングに弾む躯の腕を引かれて上向きにされると同時に、いつの間に脱いだのか上半身を晒した次元が覆いかぶさった。
「逃げねえのなら・・・遠慮なく頂くぜ」
「逃げたら?」
「逃がさねぇよ。とっ捕まえる」
なら聞くな、と笑った唇に次元の唇が重なる。
散々躯を弄ばれてきたが口付けを交わすのは一番最初の夢以来だと五右エ門はぼんやりと思った。
舌がぬるりと滑り込んでくる。この前と同じく煙草の味がする。
逃げない舌をなんなく捕らえると、次元は遠慮なく絡ませた。
長く続く深い口付けに息苦さを感じた五右エ門が微かに呻いた。
確かに快楽を含む甘さを乗せたその息に煽られたのか、次元の手が動きだす。
既に着崩れた着物をゆっくりと五右エ門の躯から剥ぎ取っていく。
すべてを晒した白い裸体に両手を這わし、その感触を次元は楽しむ。
巧みに蠢く舌が口内から抜かれたときには五右エ門の躯は力をなくしぐったりとベットに沈んでいた。
「気持ちいいのか?」
荒い息を吐き上下する胸に唇を這わせる。
舐めては反応する場所に吸い付きては紅い痕を残していく。
すっかりと堅く尖った乳首に吸い付くと甘い嬌声が発せられた。
夢とはいえ、次元に躯を愛撫されて、その快楽に自分の躯をコントロールできない。
無抵抗でここまで来たが、五右エ門はそのことに恐怖を覚えて今更ながら抵抗をはじめた。
この夢の原因を、無意識化の望みをはっきりとさせるためにも夢の中の次元のしたいようにさせよう。
そう決心して、この行為に臨んだはずだったが。
結局は耐え切れず、次元の躯の下から抜け出し愛撫から逃れようとしたのだ。
しかし、次元はそれを許さなかった。
「逃がさねぇって言っただろう?」
「あぁっ!?」
既に堅く反り返りはじめている五右エ門の性器を掌で包み込み、上下に擦りあげる。
体中に唇を這わし、性器を擦りあげ、隠れ潜む後孔に指を差し込んだ。
「やめっ、じ、次元っ」
シーツに縫いとめられた白い躯が大きく仰け反る。
五右エ門の躯は今までにないほどの快楽を感じていた。
なにかを考えようとする思考が、理性が溶けて、躯だけがリアルに浮き上がってくる。
ふ、と一切の愛撫がとまる。
息を乱しながら五右エ門は閉じていた目をあけ次元をみあげた。
自分を見つめるその瞳。なんとも表現しようもない色を乗せている。
そういえば幾度も夢をみたが、最中の次元の顔をじっくりと見たのは初めてだということに五右エ門は気がついた。
「五右エ門」
次元が両足を抱えあげ腰を摺り寄せる。
後孔に熱い塊が押し付けられたかと思うと、ゆっくりと侵入を開始した。
閉じた孔がジリジリと押し広げられていく。
一気に貫かれたときと違い、じっくりと後孔が内臓がその存在を確認する。
「ああぁ」
開かれる感触、満たされる感覚。
快楽に似た痛みが、痛みに似た快楽が五右エ門の躯を包み込んでいく。
「五右エ門」
動きをとめて次元が名前を呼ぶ。
根元までずっくりと差し込まれているのが伝わってくる。
「うあっ」
無意識に呻いて身を捩るとそれが快感になったのか、次元の躯がブルリと震えた。
「五右エ門っ」
もう耐えられないとばかりに次元が腰を振りはじめる。
ずんずんと激しく突かれて五右エ門の唇から声にならない悲鳴があがった。
体内を巡り巡る快楽。
呑みこまれる溺れる囚われる。
意識を混濁させ乱れる五右エ門の名を呼びながら次元はその躯を貪った。
「五右エ門」
「じ、げんっ」
溺れまいとするように伸ばされた白い手を次元は自分の背中に回させた。
抱きしめあい、交じり合う。
強烈な快感。最高の満足感。
お互いの絶頂が近いのを感じる。
次元は悶える躯を思いっきり抱きしめて、最後だと言わんばかりに思いっきり腰を突き出し最奥まで五右エ門の躯を貫いた。
「ああっ!」
「ごえ、もんっ、好きだ・・っ」
同時に達した絶頂感の最中に次元の口からその言葉が漏れた。
驚いた五右エ門が次元を見ると、言った本人が驚愕の表情を浮かべている。
ゆっくりとその瞳が動き、五右エ門をみつめた。
繋がったまますべての動きをとめた次元はしばらくして深く吐息を吐いた。
「そうか。そうだったのか」
「次元?」
次元の態度に戸惑いを感じながら五右エ門はその名を呼んだ。
「お前を抱きたかったのは、奪ってでも欲しかったのは」
切なげに眉を寄せ、泣きそうな声で次元は言った。
「俺がお前を好きだからだ」
夢の中の次元へ無駄だと知りつつ、なぜ抱きたいのだと問うたその答え。
それが今、五右エ門に与えられた。
「好きなんだ、五右エ門」
萎えたはずの体内のものがふたたび力をつけるのを感じる。
強く抱きしめられながら五右エ門は何も言えずにいた。
 
 
 
目が覚める。
夢の混乱はそのまま現実へ引き継がれ。
五右エ門は震える躯を両手で抱きしめた。
 
 
 
 
 

■YUMEJUUYA-DAIHATIYA-■
   

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