【注意】
 
ルパン三世yの66話『鬼に魅せられた五右エ門』より。その後を妄想。少々ネタバレあり。

『惑わすもの』の続きです。
  
 
 
 

 
 
■例外の自覚■
 
 
 
 

[1]
 
閉じた襖に手をかける。
部屋から明かりは洩れていない。
もしかしたらもう寝たのかもしれない、と五右エ門はゆるりと襖をあけた。
宿の者が敷いたのだろう3組の布団が並んでいるか、どれも使われた形跡はない。
窓際に目をやると大きく開かれた窓と、その前に吸殻が山積みになった灰皿と洋酒の瓶が数本。
瓶は畳に転がっていて中身はすっかり空だということがわかる。
その隣には氷が溶けたのか、数センチの水が入ったグラス。
だが、どこにもそれらの主である男の姿はなかった。
時刻はもう明け方に近い。
あの場所から宿へ帰って来て、これだけ飲んでからまた出かける、というのは有りえない時間だ。
第一こんな田舎町だ。開いている飲み屋などあろうはずはない。
何処に行ったのだろうと思いつつ、ふぅと小さく溜息を吐き出した。
開け放された窓に近寄り、次元が見ていたであろう窓辺の風景を見渡す。
目の端に映った場所に顔を向ける。
ああ、そういえば。この鄙びた宿のウリはあれだったな。
何気なく思い出す。
宿に到着したときに仲居が自慢げに案内していた。
もしかしたら次元はそこに行っているのかもしれない、と五右エ門は部屋に隅に置かれたタオルを手にして部屋を出た。


ポチャーン。
滴が水面に落ちて弾ける音がする。
この宿の自慢は24時間営業の露天風呂。
田舎の鄙びた感じもこういう場所では風情がある、という言葉に変わる。
服を脱いだ五右エ門は濡れた石畳が敷き詰められた露天風呂に足を踏み入れた。
片手にはタオルと斬鉄剣。
どんな場所であろうとも斬鉄剣を手放さない五右エ門だが、他人が風呂に入っているときは胡散臭い目で見られることが多い。
今、この誰もが眠りについてあるであろう時間に風呂を使っているものがいるとは思えず遠慮なく斬鉄剣を持ち込んだ。
仕事のためにも目立つな、というルパンの言葉もあり日頃は気をつかっているのだ、一応。
入口に溜められた湯を桶で汲み、かけ湯する。
汗と血の匂いが流れ落ちていくようでホッと息をついたが、肋骨下あたりがピリリと痛み眉を顰める。
刀傷。
大した深さはないが血がこびりつき黒く固まっている。
左門と対決したときの傷だ。
痛みはずっと感じていなかったから今まですっかりと忘れていた。
傷に連動して左門の死に様が頭に浮かぶが頭を軽く振って振り払う。
ルパンと交わした言葉は五右エ門の心の奥までしっかりと浸透していた。
ちゃらんぽらんに見えるくせに。ひどく軽薄であることも多いのに。
ルパンの言葉には真実がある。彼という世界は五右エ門をしっかりと支えてくれている。
そのルパンと同じくらいの強さで、いやある意味それ以上の吸引力を持つ男の姿を探して五右エ門は辺りを見回した。
湯煙る湯の中に確かに見覚えのあるシルエットが浮かんでいる。
五右エ門は何度か湯をかぶりこびりついた血を洗い流すと、そのシルエットの方へ歩き出した。

人が入って来たのはわかった。
醸し出す清廉な気配からそれがよく知る、というか一人になってからずっと想っていた人物であることを次元は気がついていた。
帰って来たのか。
肩の力が抜け安堵している自分に気がついて次元は皮肉っぽく笑った
左門が五右エ門にとってどういう位置にいたのか。
ずっと悶々と考え続けていた。
酒にも酔えず煙草を吸っても精神は安定しない。
少し気分をかえて頭を冷やそうとやってきた露天であったが、思考は止まらなかった。
別れてからほんの数時間だ。
だがその数時間は次元にとってとんでもなく長い時間のように感じていた。
五右エ門はもう帰って来ないかもしれない。
墓の前に佇む五右エ門の後ろ姿を思い出す度にキリリと胃が痛んだ。
仲間を抜けると、自分たちから離れていくと言った五右エ門。
怒りでなく、驚きと哀しみの感情が次元を襲った。
自分は五右エ門をひきとめられないのか、簡単に切って捨てられるほど軽い存在だったのか。
そう思うと心臓が圧迫されるたように胸が痛くなる。
だが、彼は帰って来た。
佇んでいたあの場所から次元のいるこの場所へ。
帰って来たのか。
もう一度そう心の中で繰り返して次元は小さく息を吐き出した。

ちゃぷちゃぷん。
水面が揺れて人が入ってくる。
闇に包まれているこの時間帯、いくら24時間営業とはいえ明かりは最小限に落とされている。
仄かな光りに照らされた湯煙の向こう側にいるのは紛れもなく五右エ門だ。
次元は帽子を深く被りなおした。
五右エ門の斬鉄剣のように、次元も帽子と銃はどこにでも持ち込む。
ヘタすると斬鉄剣よりも違和感を醸し出す風呂での帽子にルパンも呆れながら文句を言うことがあるが、
違和感を持ってして目立つ相棒達にもう諦めてしまっているようだった。

人影は水音をたてながらゆっくりと近づいてくる。
次元がチラリと視線をあげると斬鉄剣を握り締めた五右エ門が目の前に立っていた。
惜しげもなく晒されている裸体に、次元はチッと舌打をして視線を下に向けた。
男のくせに。
色気をまとって人を惑わすんじゃねぇ。
心の中で次元はそう吐き出した。
舌打を聞いて五右エ門は困ったような表情を浮かべた。
怒っているのだろうか。自分を疎ましく思っているのだろうか。
次元の真意がわからず戸惑うが、簡単に引くわけにはいかないと五右エ門は斬鉄剣を近くの岩の上に置きザブンと肩まで湯に浸かった。
 
 
 
 

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