彼らの日常のはじまり

 
コタローたちが乗り移った飛空艦が、爆音と共に一部崩れはじめた。
あの正体不明の飛空艦の攻撃を受けたらしい。
パプワがハッとその方向をみたあと、突然怒鳴った。
「クボタくん!あそこへ急げ!!」
聞いたことがない緊張した声。ひどく焦った様子とこめかみを流れる汗。
こんなに動揺しているパプワをはじめてみた俺はびっくりして固まったが、クボタくんはパプワの指示通り瓦礫が落ちてくる飛空艦の下へものすごい速さで飛んだ。
クボタくんがこんなに早く飛べるとは知らなかった、と二度驚いていた俺の視界に瓦礫とは違う赤いなにかが飛び込んでくる。
「え?」
「クボタくん、アレだ!!」
このまま真っ直ぐいっても間に合わない。
クボタくんは一気に下降して、その落ちてくるものの下に回りこんだ。
「シ、シンタローさん!?」
落ちてくるそれは人間だった。
赤い服を着て、長い黒髪が宙を舞っている。
どうみても、さっきまで一緒にいた舅で俺様なガンマ団総帥だ。
そう認識したときには、強い衝撃と共に俺は上向きに倒れていた。
俺の上にはシンタローさん。
「あー、ちょうどいいいいクッションがあって助かっったーー!」
クッションってあんた。
「あの・・・おにーさま。俺の上に乗ってますけ・・・ど・・・」
息も絶え絶えに答える俺の横でパプワが心外といった様子で言った。
「ナニをいう!ちゃんと落ちるとこを確認して助けにきてやったんだぞーー!」
チラリと視線を送ると、さっきの様子が嘘だったかのようないつも通りのパプワがいた。





お気遣い紳士が言っていたタイムリミットが切れたのだろう。
飛空艦はシンタローさんの安否を確認することなく、時空の中に消えた。
そして俺たち4人はパプワハウスに戻ってきた。
今日は本当にいろいろあった。
ちみっこ女王様のコタローも獅子舞隊長もみんな帰ってしまった。
寂しさを自覚したのと同時に一気に疲労が襲ってくる。今日はさっさと眠ってしまうに限る。
食事も終わり、さて就寝だ、というときになってようやく俺はシンタローさんの様子が少しおかしいことに気がついた。
「シンタローさん、どうかしたっすか?」
「・・・どうにかってなんだよ」
不機嫌そうな表情でジロリと睨み付けてくる。
こ、怖えーーーーーーー!!!!
でも、負けてる場合じゃない。
俺の見る限り、シンタローさんの顔は赤いし少しぐったりしているように見えるのだ。
まさか。
思いあたることがある。
この人はかなり重症な怪我人だったのだ。
聞くところによると、崩れて燃えさかる方舟を生身で支えていたらしい。
火傷と骨折と沢山の打撲。
普通なら動けず、絶対安静だろう。
だが、この人は鍛えた体と気力で今まで持ちこたえていたのだ。
きっと痛み止めなどの薬も切れた頃だ。そうとう辛いだろう。
俺はその考えが間違っていないか確認するために手を伸ばした。
「失礼します!」
シンタローさんが反応する前に、額に掌を当てる。
かなり熱い。
やっぱり熱があるんだ。
「なにすんだよっ」
パンと手が払いのけられる。
弱みをみせたくないのか、パプワたちに心配をかけさせたくないのか、シンタローさんは怒った顔で俺を睨んだ。
変に我慢して悪化したらよけい状況が悪くなることに気がついてないんだろうか。
「熱がありますよ、シンタローさん。体調が悪いならちゃんと言ってください」
「たいしたことねぇ」
怯まず、反対に強い口調で抗議した俺に驚いたのか、シンタローさんは拗ねたようにぷいと横を向いた。
なんだ、この人。
まるで子供みたいじゃないか。
ちょっとおかしくなりながら「じゃ、布団を敷きますから」と言って俺は立ち上がった。
ふとみるとパプワとチャッピーがじっとシンタローさんをみつめていた。
その視線に気がついたのか、シンタローさんはパプワたちをみて「たいしたことねぇって」ともう一度言った。

敷かれた布団をみてシンタローさんの眉が寄る。
布団は3組。
いつもどおり、俺の分とパプワたちの分。
そして今までコタローが使ってた布団はシンタローさんの分だ。
どこもおかしくないと思う。なぜシンタローさんが変な顔をしたかわからない。
「おい、パプワ」
「オマエは怪我してるからナ」
シンタローさんの問いかけるような声にパプワがそう答えた。
なんのことを言っているんだろう。
「怪我してるのとどう関係があるんだよ」
「寝てる間に蹴ったりぶったりしたら傷が悪化するだろ」
パプワの横でチャッピーが「わう」と鳴いた。
「ばーか、なに気ぃつかってるんだ。平気だっていってんだろ」
そういうと、シンタローさんは少しずつ離して敷いていた布団をピタリとくっつけた。
パプワが無言でシンタローさんをみあげる。
「それともお前、まだ寝相悪いまんまかよ」
「・・・失礼な。僕は昔から寝相いいぞ!」
「はーい、はいはい。じゃ、問題ねぇじゃねえか。寝相がいいなら蹴ったりぶったりしないだろ?」
シンタローさんがニヤリと悪戯気に笑った。
「さ、とっとと寝ようぜ。今日は疲れたからな」
そう言ってシンタローさんはゴロリと布団に寝転んだ。
骨折していない腕を真横にどんと伸ばす。
越境してきた腕をみて、パプワの表情が少し緩んだのがわかった。
「・・・蹴っ飛ばして傷が悪化しても文句いうなヨ」
「寝相いいんじゃなかったのか?」
クスリと笑うシンタローさんの横にパプワはゴロリと寝転がった。
そのまた横にチャッピーが寝転ぶ。
伸ばしたシンタローさんの腕の中にすっぽりとふたりが収まったかのようにみえた。
「ボーとしてないで灯りを消せ。節約第一だろうが」
シンタローさんの声に、ハッと我に返った俺は「はい!」と返事して灯りを消し、少し離れたところに敷かれたままの布団に潜り込んだ。

そうか。
この人たちはいつもこんな風に一緒に寝てたんだ。
布団をくっつけて仲良く一列に並んで一緒に。

4年間パプワたちと一緒にいたが、俺は番人でパプワたちは守る対象だった。
シンタローさんは1年だけしか一緒にいなかったのに、本当にパプワの友達だったんだ。
一緒にいた歳月に関係ない、深くて強い絆。
4年の年月を越えても変わらないモノが今ここにある。

なんだかチリッと胸の中が痛んだような気がした。
だが、それがなんなのか俺にはわからなかった。
ただひとつわかったのは、彼らの時間がまた流れ始めたということだった。
 
 
 
 

 
■あとがき■
シンタローが飛行艇から落ちてパプワが助ける
あの回の話、大好きなんです!
原作では次の回はいきなり普通に生活してますが
間にこんなことがあってたらいいな〜
と妄想しちゃいました。
だって南国のときは仲良く並んで寝てたんだしv

リキッドがちょっと可哀相な感じですが
パプワとシンタローの何年経っても変わらない絆
ってのがいいと思うのです♪







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