ボーと遠くで汽笛の音がする。
ウミネコの鳴き声とザザザという潮騒の音が五右エ門を眠りから覚ました。
モゾリとみじろぐと素肌に直接シーツが触れて、自分が全裸であることに気がついた。
(そうだ)
体に残る倦怠感、奥底にある異物感。それらが昨夜の情事を思い起こさせた。
伝わる温もりと静かな寝息に顔を向けると、昨夜自分を抱いた男が隣でぐっすりと眠っている。
どことなく満足そうな寝顔をみて、なにやら心の奥が暖かく・・・ではなく、ムカリとした腹立たしさが湧き上がってきた。
男同士の交わりは、片方にかなりの負担を与える。
元々そういうふうに出来ていない器官を使うのだ。負担が大きくて当然。
それは相手も五右エ門も充分理解しているが、それでも会えば抱き合い交じり合いたくなるのが想い会う者同士というものだ。
男は船、女は港。
よく言われてきた言葉だ。
女性が強くなってきた昨今、この言葉がまかり通るかはわからないが、ある種の真理を突いていることには間違いない。
だが、五右エ門も相手も女ではない。しっかり自分の道を行く男同士。
つまり、港はないのだ、ふたりとも船。
出航したら戻る場所はなく、いつ会えるともわからない。
というのは大げさだが、仕事がないときや五右エ門が修行に出たときなどは月単位で会わないことも多いのだ。
だからこそ、出会えたときの喜びと情を交わす悦びは最上のものになる。
昨夜は五右エ門だって心底求めた。抱き合い、貫かれ、揺すられて、何度も絶頂を駆け上がった。
蘇る甘美な記憶を封じ込めるように頭を左右に振りながら五右エ門はゆっくり身を起し、少し離れた所に置いておいた斬鉄剣に手を伸ばす。
すると。
腹筋に力が入ったのか、体勢をかえたせいなのか。
くぷりと小さな音を立てて、昨夜たっぷりと注がれた液体が溢れ出した。
「あっ」
小さく声をあげキュッと締めたが、既に溢れた液は双丘の間を伝い内股を流れ落ちた。
その感触を受けながら、五右エ門の頬が朱色に染まる。
浮かぶ感情は羞恥と怒り。
受け入れる負担を理解し、中に出されたときの後始末の大変さもわかっているのに、この有様。
理解しているからこそ、最初はちゃんと考えてくれていると思う。
だが、行為がエスカレートし夢中になってくると男の態度は一変する。
まるでケダモノ。
それを拒否もせず、共に獣に成り下がる己にも腹が立つ。
(修行が足りん)
心の中で呟くものの、締めた感覚とその中に有る液、そして擦られすぎて残る異物感が、昨夜の行為の一部始終を五右エ門に思い出させた。
荒い息使いと快感に染まった喘ぎ声、滴る汗と発火するように熱い肌、そして覆いかぶさる逞しい躯。
いまだ燻っていた快感の余韻が、それらの記憶と共に蘇ってきた。
力なく垂れていたものが重力に逆らって徐々に立ちあがっていく。
(まずいっ)
五右エ門は慌ててシーツを手繰りよせると、その部分にシーツを被せ押さえ込んだ。
直に触るより刺激にならないという一瞬の判断だったのだが、あまり効果はなかった。
反対に押さえた自分の手の感触に、ゾクンと快感が体を貫いてしまう。
ベッドの上で膝立ちになり、斬鉄剣を片手に己の股間をシーツで隠す五右エ門の尻がチュッと音を立てた。
軽く吸われた感触にハッと振り向くと、いつの間にか目を覚ました男がニヤニヤと五右エ門をみあげていた。
「おはようさん」
挨拶と同時にまたもや五右エ門の尻にチュッと口付ける。
「朝っぱらから何をするっ」
五右エ門は腰を引き、男の唇から逃れながらジロリと睨みつけた。
甘い夜を過ごした恋人同士の朝には到底みえない態度だ。
だが、男は慣れたもので睨みつけられても平気な顔をして、ニヤリと笑った。
どんなに殺気立たせても、華のようなキスマークを白い肌に散らせたうえ、こんなに扇情的な格好をしていてはなんの効果もない。
それどころか、そのギャップに興奮が増すだけだ。
「朝っぱらからこんな風になってるおまえさんに合わせてやってんだけどな」
隠すようにシーツと一緒に添えた手ごと、男はガシリと握りしめた。
「ぁっ」
問答無用で刺激され、小さく喘いだ五右エ門の体が前のめりになる。
と同時に突き出された尻から、ふたたび残液がくぷりと音を立てて吐き出された。
「いい眺めだぜ?」
流れ落ちる、昨夜出した自分の液体を舐めとりながら、キュと萎む器官に舌を這わせる。
「ばか、ものっ!やめろっ」
逃げようとするが、性器ごと腰をしっかりホールドされ前にも後ろにも逃げられない。
それどころか前後を遠慮ない動きで弄られ刺激され、五右エ門は斬鉄剣を握りしめたままベッドに倒れこんだ。
「昨日は中出しして悪かったな。ちゃんと今から後始末してやるよ」
楽しそうに言った男の舌が濡れたその場所に捻り込まれる。
体内を舐められる快感と勃起を握られ擦りあげられる快感に、五右エ門の抵抗は徐々に小さくなっていった。
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