ガタッ
湯のみを持つ指が震え、一気に力が抜けた。落ちた湯のみから零れた茶がテーブルの上に広がっていく。
ガタガタッ
傾く視界の先で女が妖艶に微笑んでいる。
「ふ、じ・・・こっ」
どういうつもりだと叱咤したかったが言葉は紡げず、ぐらぐらとした眩暈を感じながらドッと五右エ門は畳の上に倒れこんだ。
「あなたがいけないのよ?あんなことを言うから」
優しげだが氷のような女の声がそう囁くのを聞きながら、五右エ門は意識を失った。
ふ、と意識が覚醒する。
目をあけると見慣れた天井。一瞬、朝かと間抜けなことを考えたが、体を弄られる感覚にハッと意識がクリアになる。
「な、んだ?」
起き上がろうとするが体が鉛のように重く動かない。
手足さえもまるで畳に磔にされているかの如く、指先ひとつ動かすのにもかなりの気力を要した。
「う、あっ!」
体の中心からビリリと指先まで電流のようなものが走る。それが繰り返し体を駆け巡り、ようやく快感なのだと気がついた。
「アラ、起きたの?」
聞きなれた女の声が下方からした。
両手両足を投げ出し大の字になっている五右エ門の、まさに腰の辺りにいるのがわかる。
気配というのではなく、リアルな感覚としてそれを五右エ門に知らしめた。
「なにを・・・している」
体と同じく自由にならない声帯を無理やり動かすが掠れたような声しか出ない。
「聞かなくってもわかるでしょう?」
側面とツツツとなぞられ先端を指先でクリクリと刺激される。
「!!」
動かぬ体が刺激にビクリと跳ね上がる。
信じられなかった。信じたくなかった。
だが、それは衣服の上からでなく直接的な刺激と感触だった。そして間違いなく、己のモノは臨戦状態になっている。
茶に入れた薬で意識を失った五右エ門を不二子は弄り、勃起させたのだ。
羞恥と怒りで五右エ門の顔が朱色に染まる。
「どういう・・・つもりだ!」
怒鳴ったつもりだが、喉の奥から引きつったような声が出ただけだった。
「なぜ怒るの?貴方のコレは私の口の中でどんどん大きくなったのに?」
クスクスという笑い声と共に卑猥な言葉が投げかけられる。
空気に晒されたその場所は根元までぐっしょりと濡れていて、それは先走りだけですむ量ではなく、不二子が言ったことが事実であることを五右エ門に伝えてきた。
逃げるように身じろぎ腰を引こうとするが、痺れた体は微かに揺れた程度だった。
「私はね、したいときにするわ。誰にも指図はされないし、誰かに貞操を捧げるつもりはないの」
空気の動きで不二子が身を起こしたことがわかるが、五右エ門はあえて視線を天井に固定した。
下を見れば、見たくないものが、信じたくない現状が、現実として五右エ門に突きつけられるからだ。
「私の体は私のもの。心もそう。誰のものでもないの」
不二子の体が五右エ門の腰の上を跨いだ。左右の脇を挟んだ女の膝の感触。
不二子のしようとしていることに気がついて五右エ門の顔色は朱色から青に変わった。
まさか。
五右エ門を弄り辱めを与えようとしているだけだと思っていたのに。
まさか。
「愉しませてあげるわ」
「やめろ、不二子!!」
悲鳴に似た叫びが五右エ門の唇から迸る。
それを音楽のように聞きながら目を細め楽しげな表情を浮かべ、不二子はゆっくりと腰を下ろした。
くちゅくちゅと厭らしい水音が響き渡る。
結合音を五右エ門に聞かせるように、わざと大きく鳴るように腰を蠢かす。
「想像してたより素敵よ」
はぁ、と甘い吐息をつきながら不二子は囁いた。
特に大きいとか長いとか太いとかいうことはなく日本人の標準サイズよりも少し大きい程度のモノではあったが、反り返りと硬さは抜群だった。
感じる場所に擦りつけながら腰を回すと、五右エ門はグウゥと呻き声をあげた。快感よりも苦痛の色が強い喘ぎに不二子はフフフと笑った。
五右エ門が今考えていることが手に取るようにわかる。
男女の交わりの悦びでも、不二子と交わることを拒否する気持ちでもない。ただひたすら、ひとりの男に謝り続けているのだ、この馬鹿な男は。
だが、体は与えられる快楽から逃れることは出来ない。修行だのなんだのと禁欲を主とする五右エ門など、不二子の手にかかれば赤子も同然。
甘い喘ぎ声を聞かせ、いやらしい言葉を投げかけながら、不二子は締め付け擦りあげた。
「う・・あっ」
五右エ門が仰け反り白い頤が突き出される。体内のモノはこれ以上ないというほど大きく膨れあがり、五右エ門が絶頂に近いことを不二子に伝えてきた。
だが、まだ許すつもりはない。
「五右エ門」
名を呼ぶがもちろん返事はない。不二子もそんなものは求めていない。
ただあることを伝えるだけだ。五右エ門をもっと苦しめるために。
「ねぇ、五右エ門。わかってる?スキンはつけてないのよ?」
動くことをやめて体を前に傾け、五右エ門の頬を両手で包み引き寄せその顔を覗き込む。
「な、に・・・を?」
「わかってないの?中で出すと私、妊娠しちゃうかもしれないわ」
果敢にも不二子を睨み付けようとしていた目が、大きく見開かれた。
「どうするの?五右エ門?」
「・・・不二子」
「私とこんなことしちゃってルパンに顔向けできないとか思ってるんでしょ?」
にっこりと笑って、男にしては白い頬から手を離し体を起す。
「でも、どこまで我慢できるのかしら?」
不二子は汗にまみれた五右エ門の腹筋に両手をつき体を支えると、腰を大きく上下に振り始めた。
ふたたび、ぐちゅぐちゅとした水音が今まで以上に大きな音を立て始める。
「う、あっ!」
両目をギュッと瞑り、同じく全身に力を入れて五右エ門は襲い来る快感に耐える。
握り込んだ両手も畳に擦り付けるようにピンと伸ばされたつま先も、力の入れすぎで白く変色している。
そんな必死な男を哀れげに見下ろしながら、不二子は容赦ない動きで結合部分を摩擦しながら体内のモノを締め上げる。
リアルに形まで伝わってくるほどに締め付けながら擦ると、不二子の膣から脳天へ向けてピリリとした快感が駆け上がった。
ビクビクと組み敷いた男の体が細かく痙攣するが、苦しげな呼吸を繰り返しながらも必死に耐えている。
仲間であるルパンの愛する女と交わる。
それは五右エ門にとって仲間を裏切るにも等しい行為だ。そのうえ、妊娠までさせたらそれこそ取り返しがつかない。
五右エ門の精神的苦痛とイクにイケない体の快楽と苦痛。
不二子はそれを快感として受け取った。興奮が高まる。最高の快感。極上の悦楽。
不二子は大きく仰け反って快感の声をあげながら絶頂に達した。
「う、あっ!!」
絶頂による膣内の締め付けに五右エ門は耐え切れなかった。
「ああっん」
体内に熱い精液を注がれる感覚は不二子に二度目の軽い絶頂を与えた。
快感にひくつく体のまま不二子が腰をあげると、グボッという音と共に結合が解かれた。
注がれた精液が溢れ出し内股を伝い落ちるのを感じながら、五右エ門をみると顔を背け目を閉じている。
(まるで陵辱された処女みたいね)
そう思いながら不二子はクスリと笑い、立ち上がった。
快楽に火照った体は新たな刺激を求めているが、これ以上続ければ五右エ門は自害しかねない。
(困った男)
ティッシュで滴る液を拭いとり、乱れた衣服を整える。
五右エ門はというと、着物を肌蹴させふたり分の精液で濡れた下肢を晒したまま、ピクリとも動かない。
いや、まだ薬は抜けていないはずだから、動けないという方が正しいのか。
「安心して。今日は安全日なのよ」
五右エ門の傍らに膝をつきチュッと頬にキスをすると、五右エ門は顔を向け不二子を睨みつけた。
怒っているような、苦しんでいるような、哀しんでいるような、泣いているような。
なんともいえない表情を浮かべている。
「なぜだ」
瞳を正面から捉え、五右エ門が問う。
「どうしてかしら。貴方が言ったことに腹が立ったのよ」
視線を捉えたまま、スッと立ち上がり五右エ門を見下ろす。
「だから違うってことを身を持って証明してあげたの」
特に意味はない会話の中で五右エ門がふと漏らした言葉。
五右エ門にとっては当たり前だと思っていたことをただ言っただけだったのだが、それは不二子には受け入れられないことだったらしい。
だからといってここまでするかと思うが、女の考えること、特に不二子の考えることなんて五右エ門如きに理解できるはずはないのだ。
「じゃあね、五右エ門。案外楽しかったわ」
不二子が出て行った気配を感じて、五右エ門は大きく息を吐く。
女にいいようにされた己が心底情けない。このことを知ればルパンはなんというだろうか。
薬が抜け体の自由が戻るまで、五右エ門はグルグルと色々なことを考え続けたのだった。
『意外と五右エ門だって私のこと憎からずと思っているでしょう?』
『何をいっている。おぬしはルパンのものだろう』
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