剣交

ぐにゃりと景色が歪む。
あまりにも強い眩暈に五右エ門はよろめき片膝をついた。
「おい、大丈夫か」
煙草の匂いを纏った男の手が腕を掴んだ。
「ああ」
そう答えたものの、体からどんどん力が抜けていく。
体を支えている斬鉄剣から地面に向けて流れるように気力が奪われていくような感覚だった。
「まあ、仕方ないさ。銀行強盗殺人の犯人扱いされた挙句、斬鉄剣がナマクラになって精神的に参ってたんだろうさ」
陽気な声と共に俯いた頭をポンポンと叩かれる。
五右エ門の目の前で赤いスーツの端がはためく。
「顔色が真っ青だぞ。お前はもう休んでろ」
「そうそう。とっつあんをつついて殺人の疑いも晴らしてやるし、硫酸に落ちた女刀も俺達が回収しといてやるよ」
ぐい、と両脇から抱えあげられる。
情けないことに足にも力が入らないのだ。
「・・・すまぬ」
己の後始末は己でどうにかしたいが、今はそんなことを考える気力さえなくなりつつあった。
「任せとけって」
「だがよ、斬鉄剣の夫婦刀とはいえ、硫酸に溶けちまってんじゃねぇか?」
「どーなんだろうなぁ。試しに斬鉄剣に硫酸かけるわけにもいかねぇし。ま、回収してみればわかるだろ」
寝室へ向かって並んで歩きながら、五右エ門の頭上でふたりの会話が行き来する。
ぐったりして無反応な五右エ門の様子に、心配気に視線を交わしつつも陽気な口調で話続ける。
「300年に一度の添寝ってよ、俺には真似できないね」
「なにがだ?」
「禁欲300年ってことだろ?女刀も男刀の斬鉄剣もよく欲求不満になんねぇよなぁ」
「・・・お前と一緒にすんな」
呆れたような男の言葉と一緒にカチャリと寝室のドアがあく。
されるがままの五右エ門をベッドに横たえ草履をぬがし掛布をかけると「じゃあ、ゆっくり寝てな」「おやすみ〜」と声をかけて、ふたりは部屋を出ていった。
「どうしたんだ、拙者は・・・」
泥に沈み込むように体が重く動かない。見上げた天井がぐにゃりと歪んでみえる。
体調が悪いのとも違う体の変調に五右エ門は戸惑いつつ、大きく息を吐いて目を閉じた。


息苦しさとただならぬ妖気、そして与えられる刺激に五右エ門はハッと目を開けた。
寝ていたつもりはなかったが、すでに夜なのか部屋の中は闇に満たされていて物音ひとつしない。
スルリ、とまた何かが体の表面を滑る。
服の上からでなく素肌を直接スルスルと巻きつくように撫でられるそれは、五右エ門を覚醒させた感触だった。
「な・・・んだ」
胸周りや腹のうえ、太腿から足の先まで、蛇のように巻きついたなにかがスルスルと動きまわっている。
ゾクゾクとした寒気と一緒にゾクゾクとした快感が体を駆け抜ける。
それは股間のモノにさえ巻きつき強弱をつけて締め上げ、また別のそれは足の合間で蠢き双丘を前後に行き来している。
動きに性的なものを感じた五右エ門は慌てた。
「だ、誰だっ」
乾いた喉からは掠れたような声しか出なかったが五右エ門は嫌悪感もあらわに怒鳴った。
未だ体は動かないが出来る限りの力を集中させて頭を持ち上げ、なにかが蠢く自分の体をみた五右エ門は絶句した。
掛布はすでになく衣服さえ身につけていない全裸の上を白い煙のような、帯状のものが巻きつき蠢いていたのだ。
人ではない。
なにかわからぬもの。
だが、それは強い妖気を発している。
斬鉄剣で切り捨てよう咄嗟に判断した五右エ門の手が斬鉄剣を握り締めた。
いや、握り締めようとしたが指は空を切り、ただ自分の手を握り締めただけだった。
「なにっ」
斬鉄剣の不在は体を弄られる感覚を脳裏から吹き飛ばした。
重く持ち上がらない手をズリズリと動かし斬鉄剣を探すが、触れるのはシーツばかりで求めるものはどこにもない。
必死になって顔を左右に振り目で探すが、斬鉄剣どころか暗闇に包まれてシーツさえみえないのだ。
『ここだ』
脳裏に聞きなれぬ、低い声が響いた。
声のした方に視線を向けると、五右エ門の目の前に斬鉄剣があった。
「!?」
驚愕に五右エ門の目が大きく見開かれる。
横たわる五右エ門の真上、つまり空中1mほどの高さに斬鉄剣が刃を剥き出したまま浮いているのだ。
空に浮く斬鉄剣は白い靄に囲まれていて、その靄こそが五右エ門の体に巻きついているものの正体だった。
「いったい!?」
ここに来て五右エ門は周りの更なる異常さに気がつく。
背にはシーツの感触があるがさっきはそのシーツさえみえなかった。
そのなかで、自らの体と斬鉄剣だけが白く輝くような様でみることができるのだ。
ズルズルと体を這い回る動きが速くなり、モノに巻きついたものも小刻み動きだした。
「あぁっ!?」
忘れていた悪寒と快感が再び体の中から湧き上がってくる。
『良い声だ』
満足そうな声がまた脳内に響く。
「おぬし・・・斬鉄剣!?」
『いかにも』
「な、なぜ、このようなっ」
五右エ門から服を剥ぎ取り、性的に興奮させようと蠢いているのは斬鉄剣自体だと気がついて愕然とする。
『添い寝の儀式』
「なに?」
『まだ途中であった。時間が過ぎても事後交換が必要だったのだ』
添い寝の儀式。
300年に一度、男刀である斬鉄剣と女刀を添わさないと切れなくなる。
眉唾かと思っていた伝承だったが、それは本当だった。
斬鉄剣はナマクラとなり、元の切れ味を取り戻すために女刀と添わせたのだ。
斬鉄剣をも狙う、女刀の持ち主から斬鉄剣を取り戻すため色々とあり、結局女刀とその持ち主は硫酸の海の中へと落ちていった。
その添わせる時間が足りなかったというのか。
『力が足りぬのでな。お前から頂くことにした』
全身へ施される愛撫は、悪寒を弱め快感を増幅させていく。
モノ自体を遠慮ない動きで擦られては強弱をつけて揉まれ、感じない方がおかしい。
五右エ門の意志に関わらず、刺激されたモノは完全に勃ちあがってしまった。
「ど、どう・・・やって」
『どんなものも雄と雌の交わりは同じこと』
「拙者は男だっ」
掠れた声で叫ぶも、斬鉄剣から伸び五右エ門の足に絡んでいる靄は、その両足をぐいと大きく広げさせた。
『女刀がない今、お前にかわりになってもらう』
斬鉄剣がゆらりゆらりと揺れながら、五右エ門の両足の間へ移動した。
そして、白刃に輝く切っ先が五右エ門の窄みに宛がわれる。
「や、やめろ、拙者を殺す気かっ」
剣などで刺しぬかれたら待つのは無残な死のみ。
五右エ門は必死になって暴れようとしたが、巻きつく靄に自由を奪われた四肢はピクリとも動かない。
『死なぬ。お前は私の鞘』
ジリリと侵入がはじまる。
冷たい切っ先が窄みを押し広げて体内に入っていく。
「ひっ、やめろっ」
五右エ門の抵抗などものとせず侵入はとまらない。
だが、どういうことか、切り裂かれる痛みはなかった。
ただ何かが犯していく感覚だけが五右エ門に与えられる。
人との交わりと違う。
人との交わりでは決して味わえない感覚。
なんといっても挿入されている長さが段違いに違うのだ。
斬鉄剣は一定の速度で五右エ門の体を下から上へ向けて貫いていく。
数分の時間をかけたあと、長い剣はすべてその体内に収まった。
腸内から背筋を通って脳髄まで体を縦に貫かれた衝撃に、五右エ門は絶叫をあげて吐精した。
すべてを支配される強烈な快感。
挿入によってもたらされたのは気が狂いそうなほどの快感だったのだ。
『嗚呼、旨い。もっと喰わせろ』
体内から声が響き、斬鉄剣は上下前後に動き始める。
同時に絡みついた靄が全身を満遍なく滑り、尖った胸の飾りやモノに遠慮ない愛撫を与える。
「ひっ、ああああーーーーーっ」
体の中も外も斬鉄剣に犯された五右エ門の目から次第に正気の光が消え、あとはただ喘ぎと悲鳴だけが部屋中に響き渡った。


精も根も尽き果てて既に叫ぶこともできず、ただ揺さぶられ続けられていた五右エ門は、薄れた意識の中でふと誰かが会話していることに気がついた。
『なにをしているのです』
聞いたことのない声だ。
『お前か』
体内から響く、いやなほど聞きなれた斬鉄剣の声が答えた。
『なにをしているのか聞いているのです』
『お前と300年ぶりの添寝の儀式を行い妖力が増したからな。今ならこの者を抱けるかと思ってな』
『なぜ、そのようなことを』
『あの黒い男に抱かれるこの者の発する気があまりにも美味でな。私も欲しくなったのだ』
『なんということを』
『美味すぎてやめられぬ』
ぐりゅりと斬鉄剣が体内を抉る感覚に五右エ門が悲鳴をあげる。
声は聞こえるが内容が理解できるほどの理性は五右エ門には残っていなかった。
ただただ斬鉄剣の与えてくる快感に悶えては吐精することを繰り返していた。
『人間と交わるなんて。その者が死んでもいいのですか』
斬鉄剣の動きがとまり、沈黙が走る。
五右エ門の荒い息と喘ぐ声だけがあたりを満たした。
『・・・・いや、困る。この者は今までの所有者の中で一番面白いからな』
『失いたくないならもうおやめなさい』
『仕方がない。残念だがここまでとするか』
その声と共に斬鉄剣が下肢に向かって動き、五右エ門の中から完全にずるりと抜かれた。
脳髄から一気に引き抜かれる感覚、そして窄みから長いものを排出する感覚。
それは、五右エ門に更なる快感を与えた。
「ーーーーーーー!!」
声もなく叫び、大きく仰け反り跳ねるように激しく痙攣した五右エ門は、白い液を撒き散らながら完全に意識を失った。


「おい、大丈夫か?」
聞きなれた声にうっすらと目をあけると、影がふたつ覆いかぶさっている。
「熱があるぞ」
「珍しく風邪でもひいたかぁ」
ぼやけていた視界が次第にクリアになると見慣れた顔が覗き込んでいた。
「ホラ、これ。硫酸ギリギリのとことで壁に突き刺さってたぜ」
差し出された斬鉄剣よりも一回り短いそれは、確かに女刀だ。
光りには一点の鈍りもなく室内灯を反射して鋭い光を放っている。
それを知覚した瞬間、五右エ門は身に起きた出来事を一気に思い出した。
思わず飛び起きようとしたが、体は小さく跳ねただけでほとんど動かない。
「え、そんなに驚かないでもいいだろ、ホラ、斬鉄剣の横に置いておくからよ。これをどうするかお前が決めろ」
笑いながらサイドテーブルに女刀を置く。
その横には斬鉄剣。
五右エ門の視線が斬鉄剣に注がれるが、馴染んだ刀はいつもと同じ状態でそこに在った。
(夢だったのだろうか。)
斬鉄剣をみつめながら五右エ門はふと思う。
(いや、夢に決まっている。大体あんなことが現実に起こるはずはない。)
意識がはっきりしてくるとそういう結論しか出てこず、安堵すると共に激しい羞恥に襲われる。
(あんな夢をみるとは・・・っ)
人外の物、それも自らの分身のような斬鉄剣に犯される夢。
あまりにも冒涜的であまりにも淫らすぎる。
羞恥に汗をかき顔を赤くした様子に、病状が悪化したと思ったのか「大丈夫か」と声がかけられるが、何も答えることも出来ずに五右エ門は目を伏せた。
「ま、ゆっくり休めよ。あとで薬もってきてやるから」
「風邪、かなぁ。こいつが寝込むなんて珍しいな」
ふたりの会話を聞きながら、状態を確認するように五右エ門は少し体を動かした。
いまだ体は鉛のように重く、うまく動かない。
体中の関節や筋肉もギシギシと痛み、体の中も外も熱く、背筋に沿って悪寒が走り、脳天に痛みを感じる。
(そうか、風邪か)
変な夢をみたのは熱によるものと五右エ門は自分を納得させて、体の力を抜いた。
「だけどよ、五右エ門ちゃん」
くすくす笑いながら名前を呼ばれて細く目をあけると、バサリと何かがソファーに投げられた。
「いくら暑かったからって、褌まで脱ぎ捨てるなんてお前どうしたんだよ」
言われてはじめて、肌が直接シーツに触れていることに気がついた。
「着替えも持ってきてやるから寝てろ」
パタンとドアが閉まり、ふたたび五右エ門はひとりきりとなった。
(どういうことだ?)
寝かしつけられてからさっき起きるまでずっと眠っていたはずだ。
脱いだ記憶などないし、いくら熱くても脱ぎ散らかすことなど五右エ門はしない。
夢であったはずの出来事が脳裏に甦り、視線の端に斬鉄剣がみえた瞬間、五右エ門の体を縦に強烈な感覚が貫いた。
(夢だったはずだ)
だが、体は覚えているのだ、あの人外の交わりを。
残り香のように体中に纏わりつき、いまだ燻りつづける快楽が再現されはじめる。
(夢だったはずだ・・・っ!)
遠のく意識の中、声にならない声で五右エ門はそう叫んだ。


 
■コメント

新ル131話『二人五右エ門斬鉄剣の謎』ネタです。
話の中に説明を入れてますので、新ル131話をご存知なくとも大丈夫かと(ビクビク)

祭りは「森羅万象OK」とのことだったので遠慮なく「人外×五右エ門」を書いちゃいました。
相手は五右エ門の愛刀の斬鉄剣です。・・・こういうのもアリですよね?(エヘv)
ちなみにタイトルの「剣交」は私の勝手な造語です(^^;)
 

 
 
 

 

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