■こどもと悪いおじさんズ■

 
 
 
 
 

「勝手にしろ、俺は降りるぜ」
ある事象に対する決まり文句を吐いて、ルパンと別れたのは数日前。
聞かされていた計画通りに仕事が進んでいるのなら、ひと段落した頃だ。
不二子にしてやられてトホホな状態のルパンを嘲笑ってやろうと、次元はアジトに戻って来た。
だが。
「なんだこれは」
「うーん」
困ったように腕を組んで首を傾げるルパンは、予想通りにトホホな様子だが、予想したようなトホホな状態ではなかった。
ふたりの視線の先にいるのは泥棒のアジトにはふさわしくない存在。
くるりとした大きな瞳。
肩で切りそろえられた真っ黒な髪。
東洋人らしからぬ白い肌。
まろやかな頬は薄紅色に染まっている。
誰が見ても可愛らしいというだろう、5歳くらいの小さな子供だ。
だが次元にとって問題だったのは、子供がなぜ此処にいるのかというよりも、その子供の顔だった。
見れば見るほどよく似ているのだ。
もう一人の仲間である石川五右エ門に。
「・・・隠し子か」
知りたくはないが聞かずにおられない。
女に甘い五右エ門のこと、不二子のような手垂れた女にだまされたのか、なよやかな女に絆されたのかもしれない。
「いや、本人」
覚悟していたショックは来なかったが、ルパンの言っている意味がわからない。
「はぁ?」
つい眉間に皺が寄る。
返した声は知らずに地を這うように低くなり、それに怯えたのか子供がぴくりと肩を震わせた。
「怖いおじちゃんですねー、大丈夫大丈夫」
ルパンが子供の頭をぐりぐり撫でるとほっとしたように表情を緩めた。
子供を脅す趣味はない。次元も少し反省する。
「意味がわからねぇんだが」
「今回のお宝は『女の永遠の夢』なんだって」
「不二子か」
いつまでも若く美しく。
特に美貌に自信がある女なら老いは怖いものだ。
不二子も例外でなかったらしく、それを切望した結果が今回の仕事だったらしい。
「あの女も懲りねぇなぁ」
若返りを求めておかしな集団に潜り込み、大変な目にあったのはすでに忘却の彼方らしい。
「ま、効果は数日ってことだし、この有様だがら、今回も不二子ちゃんが求めるものと違ってたんだけどね」
それを知った不二子の八つ当たりの結果、五右エ門が被害を被ったのだ。
子供に戻った五右エ門の記憶は曖昧らしい。
大人の記憶もなく、外見年齢の頃そのままという訳でもない。
とはいえ、修行修行に明け暮れる修行馬鹿まで育っておらず、しつけはされていて利発で礼儀正しい。
そのうえ子供の素直さ可愛らしさを備えていて、今の五右エ門はある意味、無敵だ。
ルパンの言っていることはやはりいまいちわからない。
意味不明な表現や言葉を交えながらもどうにか説明を聞き終えた次元は、じっくりと子供を見る。
ま、隠し子じゃなくってよかった。
惚れた腫れたの相手だから尚更のこと安心した。
「俺は次元だ。よろしくな」
次元に対してまだ少し怯えている子供に向かって、口の端をあげて笑いかけると、ようやく安心したのか、子供はにっこりと笑った。
「じげん。るぱん」
覚えたばかりの名前で呼びかける。
笑顔と舌っ足らずな子供の声は、ズキューンと心臓に来た。
それはルパンも同じだったらしく。
「悪いおじさんに連れていかれたら危ないから、ルパンお兄さんと一緒にいような」
小さい体を抱き上げ、腕の上に座らせたルパンは意外と子煩悩なのか緩んだ顔をしてる。
次元は自分が同類であることを自覚しながらも「誰がお兄さんだ。だいたい危ないのはおまえだ」と、五右エ門を取り上げた。
悪いおじさんふたりの腕を行ったり来たりしながら、キャッキャと笑う子供の声がアジトに響き渡った。
 
 
 
 
 

■CHILD AND BAD UNCLES■

 
 
 
    





 

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