台所に立っている次元大介の姿は別に珍しくはない。
自分のことは自分でする、それは行動を共にするときの最低限のルールだ。
たまに当番制にしてみたりするが、自分が食べたいものは自分で調達するのが基本だ。
だから食にこだわりのある和風な男は結局カップ麺暮らしになったり、
こだわりがあるのかないのかわからない男は豆とベーコンの日々になったりする。
台所に立っている次元大介の姿は特に珍しくはないのだが、コンロに乗っているものが珍しい。
それ自体は珍しくないが、次元との組み合わせが珍しいのだ。
「五右エ門、粥が出来たぜ」
どろどろに溶かされた米の白い流動食を小鍋ごと五右エ門に差し出す。
「いらん」
冷たく言い放ち、五右エ門はツンと顔を背けた。
粥とはいえ米を拒否する姿は、これまた相当珍しいものだ。
「そう言うなよ、胃腸に優しいぜ。ホラ喰え」
せっかく作ったものを拒絶されても気を悪くするでもなく、次元は茶碗に粥をよそって差し出した。
それでも、五右エ門はほかほかと湯気を立てる粥に見向きもしない。
「拙者の胃腸は丈夫でござる」
修行中の食材は現地調達的な生活のお陰かどうかは不明だが、何を食べても腹を壊すところを見たことはない。
だがしかし。
「いいから喰え。腹が痛ぇんだろ?」
今日の五右エ門は朝からトイレと仲良しだ。
行ったり来たりたまに長く篭って、心なしか頬も少々こけているように見える。
「・・・・・・・おぬしのお陰でな」
地を這うように低い低い声には怒りが篭っている。
「だから悪かったよ。久しぶりだったから、つい。だけどおめえも最後には悦ろ・・・」
刀の鯉口を切る音に、次元は言葉をとめ後ろに飛びのいた。
「おぬし・・・っ」
「おいおい、怒んなって」
痴話喧嘩をはじめたふたりを横目で見ながら、ルパンは大きく溜息をついた。
誰が誰と何をしようと勝手だし、迷惑がかけられなければ口出しするつもりは更々ないが。
仲間同士それも男同士の夜の事情など知りたくなかった。
「こっちの胃がイテェよ」
胃をさするルパンにこそ、次元特製の粥は必要なようだ。
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