絶対絶命だ、と次元は思った。
敵に取り囲まれたときも、逃げ場を失って追いつめられたときも、どうにかなったし、どうにでもなった。
ルパンと五右エ門と三人でいれば怖いものなどほとんどない。
次元の銃と五右エ門の斬鉄剣があれば敵をけちらすことはたやすいし、どんな状況に追い込められてもルパンの頭脳と細工が危機を救ってくれる。
今回もそのはずだ。
お宝は手に入れた。敵ももう残っていない。
此処がコントロールを失い失速中の飛行機の中であってもどうにかなるはずなのだ。
「どーすんだよ、ルパン!」
「仕方ねぇだろ、仕込んだハングライダーはさっき使っちまった!」
お宝は諦めるがお前たちも一緒に海の藻屑になるといい。
それが命辛々逃げ出した敵ボスの捨て台詞だ。
おかげで機内にはパラシュートひとつ残っていない。
ルパンお得意の細工や仕込みもここまで追いかけ追い込むためにほとんど使ってしまった。
このままだとお宝と一緒にお陀仏になる運命しか残されていない。
「パラシュートは・・・もうあれしかない」
ルパンが眉毛を八の字にして呟いた。
「・・・あれ・・・か」
最後の手段だ、次元だってわかっている。
本当なら使いたくない。
なぜなら、使って命が助かっても、命が危ないからだ。
「なにか手段が残っておるのか?」
こういうとき役に立たないことを自覚している五右エ門は無言を貫いていた。
別に死にたくはないが、死ぬときは死ぬし、生き延びるときは生き延びる。すべて運命。
などと達観しててもやはり助かるならそれにこしたことはない。
手段が残ってるのならさっさと使え。
そう目で訴えてくる五右エ門を見て、ルパンと次元は顔を見合わせて頷きあった。
「五右エ門、最後の手段だ」
「うむ」
「どんなことになっても恨みっこなしだ。怒るなよ」
「うむ」
「よし!」
ルパンは力強く頷いて、次元とともに大きく開かれたハッチの外へ五右エ門を突き飛ばした。
「なっ!?」
男ふたりによる渾身の力だ。五右エ門は踏ん張ることもできず、そのまま機外へ落ちていく。
「いくぞ、次元!」
「おうっ」
床を蹴ってふたりも五右エ門に続いて、空中へ舞った。
「・・・これはどういうことだ」
呆然としていた五右エ門がようやく我に返ったのだろう、低い低い声で問う。
「いやぁ、冗談のつもりだったんだけどさぁ、まさか役に立つときが来るとはなぁ」
ルパンがダハハと笑うが、その顔はちょっとひきつっている。
「怒らねえって言ったよな、五右エ門?」
とりあえず墜落死を逃れても、斬られて死んだら元も子もないと、次元もルパンの援護射撃だ。
「うぬぬっ」
男に二言はない。だがそれでも、五右エ門は悔しそうに唸っている。
五右エ門を中心に二等辺三角形の形ででフワフワと降りていくルパンファミリー。
ありえないほど大きく膨らんだ袴の右端をルパンが、左端を次元がつかみ、真ん中では知らぬ間に袴を改造されパラシュート代わりにされた五右エ門が怒りでふるふる震えていた。
|