■交番の日■
 
 

「ふざけんなよ、ルパン、どんだけ苦労したと思ってんだ」
「泥棒の風上にもおけんな」
「だってさぁ」
眉を八の字にしたルパンを相棒ふたりは責め立てる。
怒り2割、残りの8割は呆れだ。
「女にうつつをぬかしてるからだ」
「だらけた顔は見るに耐えん」
「すっげえ美人だったろ?男なら誰だって」
ギロリと二対の眼で睨みつけられて、言葉は尻蕾みになる。
「盗んでこい」
「正直に名乗り出た方が早いのではないか?」
「えー」
ふいと同じ方向に向けられた三対の視線の先にはちいさな交番。
落し物を届けた人の良さそうなおばあさんと机を挟んで書類をつくっている警官がひとり。
奥にはこんな交番に勿体無いほどの屈強な体格をした警官がまたひとり。
「とにかくおめぇの責任だからな、俺は知らねぇ」
「時間があまりないぞ、ルパン」
大事な大事なお宝に繋がるヒントが隠された品。
それをナンパで失敗し美人に張られた弾みで落としちゃいました、なんて泥棒の恥。
挙句に落し物として交番に届けられちゃいました、なんてのはどんなジョークだ。
「メシでも喰いにいくか、五右エ門」
「うむ」
ルパンに背を向けて仲良く去っていく、薄情な相棒達に「ベー」と舌を出し。
「さーて、どうしようかねぇ」
ぽりりとルパンは頭をかいたのだった。

 
 
■1月27日■
 

 
 
 

   
■衣料乾燥機の日■
 
 

冬は日照時間が少ない。
雪国に至っては日照時間どころか太陽を拝める日も数えるほど。
空はどんよりとした雪雲に覆われていて陽が差す隙を与えないのだ。
夏ならハタハタとはためき、あっという間に乾く洗濯物もこの季節は乾かない。
だが。現代にはそんな冬の寒さにもびくともしない、文明の利器がある。
洗った物をポイッと投げ込みボタンを押せば、数十分後にはホカホカに乾いている。
そんな一昔前の人間からすれば夢のような機能を持った衣料乾燥機がこのアジトにも設置されているのだ。
自然を愛する五右エ門は自然に乾かすことを好むが、こう雪の日々だとその意思は他の仲間によって尊重されることはない。
ルパンのシャツも、次元の靴下も、五右エ門の褌も。
一緒くたになってクルクル回っているのが、丸い窓から見えている。
「おい、もういい加減やめとけ」
呆れた次元に声をかけられて、五右エ門がふと我に返ったように振り返る。
そして、ふらり。
最初はブツブツ文句を言っていた五右エ門も乾燥機の存在にもう慣れた。
だが、どうしても洗濯物を入れスイッチを押したあと、くるくる回る様子を観察してしまう。
いつまでもいつまでもずっとずっとくるくると。
結果。
「うむ」と頷ながらも、衣料乾燥機に背を向けた五右エ門の足取りはふらふらだ。
「乾燥機で目を回すなんて器用なこった」
こんなことで目を回す、馬鹿ででもなんか可愛い侍を眺め、次元は小さく笑った。

 
 
■1月28日■
  

 
 
 

   
■肉の日■
 
 

次元大介は肉食だ。
同じ日本人でも石川五右エ門は蕎麦だの山菜だの魚だの昔よき日本食を愛しているが、次元は血の滴るようなレアのステーキが好物である。
ドンと大きい肉塊を歯で噛み切り頬張ってゴクンと飲み込み胃にズンと堪る、そんな食べ応えが堪らない。
ナイフでスッと簡単に切れる上等な肉や、じっくり煮込まれてトロリと溶けるように柔らかい肉も嫌いではないが、やはりカッツリと食べた感があるちょっと固めの肉の方が好ましい。

次元大介は肉食だ。
だから食べ応えがあるものが好きである。
ちょっとやそっと無理しても壊れない、寧ろ挑んでくるような、気を抜けば反対に持っていかれそうな。
そんなところが堪らないと、次元は遠慮ない動きで五右エ門をベッドの中に引き摺り込んだ。

 
 
■1月29日■
 

 
 
 

   
■3分間電話の日■
 
 

さて、と砂時計を用意する。
携帯可能な小さなソレを懐に仕舞い込むようになったのはいつの頃からか。
以前はこんなものいらなかった。
時間など気にすることはなかったし、計らずともだいたいの経過時間は感覚でわかっていた。
だが現在。
このときだけはどうしても必要になる。
気がつけば随分時間が経っていることは多々だった。
挙句、会話が続こうが沈黙が走ろうが、長くなればなるほどある衝動が湧き上がる。
経験上、この砂が落ちきるまでがちょうど良い時間だ。
「よし」
五右エ門は小さく気合をいれて、プッシュボタンを押す。
指が押す順番を覚えているのが少々不本意だ。
コール音が数回、そして。
砂時計を引っくり返す。
「久しぶりだな、五右エ門」
「息災か、次元」
久々の声の逢瀬も、制限時間はきっかり3分。

 
 
■1月30日■
 

 
 
 

   
■生命保険の日■
 
 

例え逢うのが数ヶ月ぶりだったとしても。
例えふたりきりの時間があったとしても。
例え同室でゆっくりと夜を明かすとしても。
大きなヤマが控えているときは、絶対に抱き合うことはない。
焦げ付くような欲望を抱え、すぐ手に届く所にいるのに、恋人らしい触れあいは一切しない。
久しぶりだなと挨拶を交わし、時には酒を飲み、時には離れていた間の事を語りあったとしても、それはあくまでも仕事仲間としての距離だ。
お互いの声に、匂いに、体温に。
眩暈がするほど興奮して体が昂ぶっても。
必死に理性で欲望を押さえつけ、決してお互いを求めあうことはない。
「いくぞ」
ルパンの声に相棒ふたりは立ち上がる。
大きなヤマだ。命がけになるだろう、だからこそ。
「この仕事が終わったら、足腰立たなくしてやるからな」
「それは楽しみでござる」
囁くように言葉を交わし、欲情を瞳の奥に隠した顔を見合わせニヤリと笑いあう。
お宝以外の褒美があった方が命汚く生きられることを、ふたりは知っているのだ。

 
 
■1月31日■
  

 
 
 

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