怖いもの知らずの若い頃は山のように無茶な事をしたし、恋だの愛だの友情だのも身近にあった。
だが年齢を重ねて『おっさん』などと呼ばれる年齢になると、それらはこっ恥ずかしいモノとなる。
おっさんでも無茶はするが昔ほどの後先考えない馬鹿なことをすることは少ないし、
友情ならまだしも恋だの愛だのになると二の足を踏む。
いい女だなやりてぇ、よし守ってやる、なんて思っても、愛しいとか恋しいとかまでは発展しない。
この年になれば守りに入るし、そこまでの情熱もわかず、ある意味俗物的にもなる。
はずだったのに。
「どうしてこうなった」
次元は頭を抱える。
会えなくて物足りなくなったり、冷静沈着を目指してたまに失敗している幼気さについ口元が緩んだり、笑顔を向けられて抱きしめたくなったりして、自分の正気さを疑っていたりしたものなのだが。
久々に顔を見て、それらが恋しいとか可愛いとか愛しいとか、そんな感情から発するものだと唐突に気がついてしまったのだ。
相手が女ならまだ何とかなる。
相手が少女でも老女でもここまでショックは受けなかったと思う。
相手が男でよりにもよって堅物のサムライともなれば、ショックと絶望ははかり知れない。
なぜ友情を乗り越えて、別の情を持ってしまったのかと、懇々と己を問い詰めたい。
「どうしたのだ、おぬし」
いつの間に近づいたのか、すぐ横から五右エ門の声がした。
パッと顔をあげると、気遣わし気な表情を浮かべ次元を覗き込んでいる。
次元を惑わし絶望に陥れた当の本人であるというのに(五右エ門からすれば何を勝手な事をと言うだろうが)、自覚に伴う衝撃で少々パニックに陥りかけていた次元にはその優しさが身に染みた。
だからつい。
「五右エ門っ」
だからつい次元は、縋るようにその手を掴んでしまった、握ってしまった。
一瞬目を丸くした五右エ門は包み込まれるように手を握られていることに気がつくと、さっと手を引き抜いた。
随分とつれない態度である。
「ほら、行くぞ。ルパンが待っているでござる」
慌てて背を向ける五右エ門の、赤く染まった顔を見て、今度は次元が目を丸くした。
普通男が男に手を握られて頬を染めるか?
嫌悪ならまだしも照れるとはどういうことだ。
もしかしてもしかして。
絶望に染まっていた次元の心の中に一筋の希望の光が差し込んだ。
もしかしてもしかして?
あと必要なのは勇気。
ただそれだけだ。
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