■死んでも愛して■
 
 

ぼんやりとゆっくりと意識が浮き上がる。
さっきまでは何もなく思考もなかったというのに、徐々に自我が構築されていく。
此処は何処だ。
俺は誰だ。
なんのために此処に在る。
思考が拡散して纏まらない。
とじない瞼、動かない眼、四肢の感覚もない。
何も自由にならない状態。
出来ることといえば思考することだけだというのに、それさえもままならない。
面倒くさくなる。
考えることも在る事も。
このまま意識を消滅させ無に戻る方が楽な気がするのに、それを止める何かがある。
奥底から訴えてくるのだ、此処に在れと。
何かの為に戻って来たのだ。
その目的を果たすまでは何処にも行くことは出来ない。
ぼんやりとした思考の中で、ぼんやりとした動かぬ世界を見続ける。
動けないのだから見える景色は変らない。
「ああ、還って来ておったのか」
どれだけ時間が経ったのか。
耳などないはずなのに懐かしい声が聞こえた。
そうだ、こいつに会うために、霧散した意識をかき集めてまで戻って来たんだ。
浮遊感。
優しい手で包まれて持ち上げられた。
白い顔には皺が少し刻み込まれていて、長めの髪にも白いものが混ざっているが、間違いようがない。
目の前にあるのは懐かしく、愛しい男。
「次元」
そうだ、次元。
次元大介が俺の名前だ。
そしてこいつは石川五右エ門。
自分の名前と共に相手の名前も思い出す。
「今年も三日間、共にあろう」
嬉しそうに笑って、五右エ門は顔を寄せ、唇がない口元にそっと優しく口付ける。
皮膚も神経もないはずなのに、柔らかい感触も温かさも伝わってくる。

しゃれこうべに口付ける姿は傍目から見れば狂気の沙汰、狂人扱いだろう。
だが、誰が何を言おうと何を恐れようと、そんなことはどうでもいい。
今年もまた。年に一度の短い逢瀬が始まるのだから。

 
 
■お題【頭蓋骨】■
 
お盆ネタ。死ネタなんて初めて書いたかも?(^^;)
ま、たまにはいいですよネ

  

 
 
 

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