ぽかぽかとした、天気の良い真昼間。
中庭からは五右エ門の剣を振るう音が聞こえてくる。
いつもいつもご苦労なこって。
開け放たれた窓からのそよぐ風に気持ちよく吹かれながら、ルパンはソファーのうえで伸びをした。
そのとき。
「あっ」
次元の驚いたような狼狽したような声が聞こえた。
「なっ」
ワンテンポ遅れて五右エ門の驚愕の声が聞こえた。
次元だけだったら放っておいたが「ふたりのとも」というのがミソだ。
敵襲などの危険性はまったく孕んでいない分、何に驚いたというのだろう。
ルパンは訝しげな顔をして立ち上がる。
マメな次元は、昨日変装用に手に入れた服を洗濯し、中庭に干しに行っていたはずだ。
急を要してスーパーの衣料品売り場で購入した、いかにも安かろう悪かろうなTシャツとジーンズである。
昨夜の逃走中にドロだらけになったそれらは普通ならゴミ箱行きなのだが、物を大切にする五右エ門がそれを許すはずはない。
もう二度と袖を通すことがない服はタンスの肥しになるために洗濯機に放り込まれたのだ。
ルパンは窓からヒョイと中庭を覗いた。
素振りをしていたはずの五右エ門は両手をダラリとおろし呆然としている。
次元は動揺を隠そうとして隠し切れず、震える手で洗濯物を干し続けている。
ピンと張られた洗濯紐には洗ったばかりの服がかけられ、ヒラヒラと風に揺れている。
その洗濯物を一瞥しようとしたルパンの視線はそのままそこに固定された。
視界にバンと飛び込んできたソレは。
白抜き文字のロゴが入った真っ赤なTシャツ。
皺になってなんだか色が薄くなったように見えるジーンズ。
そして、紫色の褌。
ぷぷーーーっ!
ルパンは堪らず、吹き出した。
赤と青の色物と一緒に洗われた五右エ門の褌は、見事に紫色に染まってしまったのだ。
常時使用しているのは白。
どんな拘りがあるのかはわからないが、勝負事のときに、たまに赤。
褌など普通は目にすることはないが、五右エ門と一緒にいればそれはもう日常だ。
だが常識的に考えても、色とりどりの褌なんて見たことも聞いたこともない。
それがよりによって見事な紫。
これが笑わずにいられようか。
紫の褌を身につけた五右エ門が頭に浮かび、またもや笑いがこみ上げる。というか、止まらない。
ようやく正気に戻りふるふると震え出した五右エ門と、ジリジリと後ずさり始めた次元の姿が更に可笑しさを倍増させる。
いくら窓越しとはいえ、ルパンの爆笑は大いに聞こえたらしい。
鋭い視線が次元からルパンに移る。キッと音がしそうなほどだ。
もう一人の男は、笑うな!というかどうにかしろ!と視線で訴えてくる。
「まぁまぁ、いいじゃないよ」
まだ這い上がってくる笑いを、グヒグヒと喉の奥に押し込めて、ルパンは手をヒラヒラ振りながら言う。
何がいいものか!五右エ門の眼が口ほどに物を言う。
次元は次元で、救いを求めてきたくせに何を言い出すんだ、と身構えている。
そんなふたりと見据えてルパンはニヤリと悪戯気に笑いかけた。
「だって、次元が好きな下着の色は紫なんだろ?」
一瞬、何を言われたかわからないという顔をして。
そしてすぐに、ふたりは同時に真っ赤になった。
そんな相棒達を見て、どうにか抑え込まれていたはずのルパンの笑いは再び爆発した。
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