部屋は綺麗になった。御節も出来た。風呂に入って夕食もとった。
テレビの特番ドラマに釘付けの五右エ門を微笑ましく横目で眺めながら、次元は日が変わるのを待つ。
あと2時間。
あと1時間。
零時過ぎたら行動を起こす。次元はそう決めていた。
のだが。
あと数十分で年が明ける、というところまで来たとき、遠くからゴーンと聞こえてきた鐘の音に五右エ門が反応した。
「お、除夜の鐘か」
甘い時間へのカウントダウンだ。次元は期待に綻ぶ顔をどうにか平常に戻しながらそう呟く。
「次元、初詣だ」
突然立ち上がった五右エ門はテレビを消し、珍しく羽織に腕を通しながら次元に向かって言った。
「は?」
「少し離れているが、この地方では有名な神社があるのだ。行くぞ、次元」
「・・・・・・今からか?」
せっかく暖まった室内と身体。あとはもっと温かく熱くなるだけだったというのに、この寒空に外に出ろと?
「無論」
有無を言わせないほど確固とした意思を見せ、五右エ門は次元にコートとマフラーを放ってくる。
行かないなんて言える雰囲気ではない。
『冗談じゃねぇ。この寒空の中誰が好き好んで行くか』
そう言いたい。いつもなら絶対に言っている台詞だ。だが。
「おぬし、初詣など久しぶりだろう?」
久々の日本らしい年末年始に上機嫌の五右エ門の機嫌を損ねたくない。
なんだかんだ言って惚れているのだ、第一下手に機嫌を損ねればこのあとの愉しい時間はオシャカ。ここまで働いた甲斐がなくなる。
時計を見れば時間はまだ零時を過ぎてない。次元が心の中で決めていた五右エ門主導の時間内だ。
次元はハァと溜息をつき立ち上がり、受け取ったコートを着込んだ。
「五右エ門」
「なんだ?」
「今年はお前流に付き合ったんだ。来年は俺流に付き合ってもらうぜ」
ジロリと次元が視線を送ると、一瞬ポカンとしたあと五右エ門は少し笑って「諾」と答えた。
その様子を見てすぐに、次元は五右エ門の勘違いに気がついた。
たぶん五右エ門は次元が来年の年末も一緒に過ごそう、だが今度は俺流で。
という意味で言ったと受け取ったのに間違いない。
しかし、次元の言う来年は『明日』のことだ。
勘違いにせよ、五右エ門は『諾』と言ったのだ。武士に二言はないはず。
というか、絶対文句は言わせない。
「楽しみだ」
次元はニヤリと笑い返した。
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