「あの帽子はなんなのだ?」
ソファーに寝そべり居眠りする男の頭に置かれたトレードマークを顎でしゃくりながら五右エ門は言った。
この男はいかなるときもこのトレードマークをはなさない。
戦いの最中でも飛ばされないように片手で抑えるのも厭わない。
命のやりとりの真っ只中に片手が自由でなくなるのはそれなりに不利なのだが、そんなことは二の次らしい。
こんな大げさな例えを出さなくとも、日常生活でも夜に寝るとき以外は帽子を脱がない。
いや、寝るときさえ、ナイトキャップ使ったりするからなにも被らないわけではないのかもしれない。
温泉ですら帽子着用のときはもうほとほと呆れ果てたものだ。
だが慣れとは恐ろしいもので、今となってはあまり気にならなくなった。
とはいえ、たまに、たまにではあるが、ぶり返しのように不思議に思うこともあるのだ。
今の五右エ門がまさにそれだった。
自分よりも付き合いが長いルパンへ、五右エ門は今更のように問いかけた。
「ああ、あれな」
ルパンはチラリと次元を見やってから、コイコイと五右エ門を手招きした。
内緒話のような態に五右エ門も素直に近づく。
「最初はハゲでも隠してあるかと思ったんだけどよ」
「ハゲなどないぞ」
速攻返って来た言葉にルパンは目を丸くして、すぐに苦笑した。
いつも隠されている頭部にハゲがないことを当然のように知っているのはなぜかなど五右エ門は考えないらしい。
「ああ、ないんだよな。で、俺なりにいろいろ推察したんだけどさ」
「うむ」
「あいつの髪ってホラ、いつもモサモサしてるだろ?」
「もさもさ?」
そう言われれば、肩につくほど長く伸ばしている髪は帽子の下からはみださんばかりに膨らんでいる。
それをモサモサと表現するかどうかはわからないが、否定できないことは確かだ。
「だから気がついたんだけどよ」
ルパンは内緒話のように声を益々潜めた。
「きっとあいつ・・・・・・すごい癖毛なんだぜ」
「くせげ」
癖毛と言われてもすぐにどういう状態なのか想像できない五右エ門は、鸚鵡のようにルパンの言葉を繰り返す。
子供みたいな様子にルパンは小さく笑いながら、続けた。
「そう。放っておくと膨張するのさ。だから帽子で上からギュッギュと抑え付けてる」
「・・・・・・・・なるほど」
少しの沈黙のあと、思うところがあるのか五右エ門も納得した。
「だから、帽子被らねぇと照準狂うなんてアホな設定つけるほど、ものすごい癖毛だと思うんだ」
「ものすごいというと?」
「例えば・・・アフロになるとか」
瞬間、ふたりの脳内にアフロな次元が浮かび上がった。
意外と似合う。
「ぶぶーーーー!!」
「ぅくくくくっ!!」
肩を揺らして笑うルパンと五右エ門。
アフロ疑惑が勃発したこととも知らず、次元はいまだスヤスヤと眠り続けていた。
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