■愛するものの腕(カイナ)に抱かれて眠るとき■
 
 
 
 

お宝の鍵となる硝子細工の薔薇。
色々な意味でヤバイと思いながら、咄嗟に体が動いた。
落ちていく薔薇を追いかけて一緒に落ちる。
脆いガラスは床に叩きつければ一瞬で砕け散るってしまう。
せっかくの手がかりを失くすわけにはいかない。
ようやく掴んだときには地面はすぐそこで、とっさに受身をとったが間に合わなかった。
背中から叩きつけられ、後頭部にも強い衝撃。
頭がぐらぐら、目の前がチカチカする。そして視界が徐々に暗くなっていく。
マズイと思うもどうすることもできない。
遠ざかる意識の中でふたりが駆けつけてくるのがわかった。
「大丈夫か、次元!」
五右エ門だ。焦った心配そうな声色。大丈夫だ心配すんな。
「よし、壊れてないぞ、よくやった次元!」
ルパンだ。ホッとしたような声色。おい!最初に獲物の確認かよ!!
頭の中で思うだけでその言葉を口にすることもできず、俺はそのままブラックアウト。


ゆらゆら。
子供に戻ってゆりかごに揺られている夢。
暖かく、嗅ぎなれた良い匂いがして、気持ちがいい、おちつく。
ゆらゆら。
頬にあたる体温、たまにサワリと触れる髪。
おふくろに抱かれている夢だ。
ゆらゆら。
幸せで、恥ずかしくって、でも離れたくない。
眠ったふりをして少しでもこの幸せな時間が続くといいと思う。
そんなむず痒い大昔に戻った夢を見た。


「気がついたか、次元」
ふと目をあけると、五右エ門の白い首筋が視界の先にあった。
「大丈夫か」
ゆらゆらと揺れる視線の先で、薄い唇と喉仏が動いているのが見えた。
「・・・ああ」
ようやく出した声は掠れているが、声を出すことにより体に力が入ったのか意識が完全に夢から離れた。
そうか、落ちる獲物を追ってしたたかに地面に叩きつけられたんだ。
ぼんやりと思い出す。同時に背中と頭が痛みやがる。
あの場所から、ルパンか五右エ門がここまで運んでくれたのか。
そう思ったとき、なんだか変だということに気がついた。
体が揺れているのだ。宙に浮いた感覚がある。
まだ移動中だということか?
それにしても、肩に担がれたときに感じる腹への圧迫なんかがない。
だいたい視線の先に五右エ門の首筋が見えるのはどういうことだ。
なんかおかしい。
そう思って周りを見渡した瞬間、驚きのあまり意識も思考もクリアになった。
なんだ、なんだ、なんでこんなことになってるんだ。
ヘマして意識を失った俺がとやかく言えることじゃないかもしれない。
あの場所から俺を連れて脱出するのも一苦労だっただろう。
だからといって、これはないんじゃないか?
肩に担ぐとか、背負うとか、方法はいくらでもあるじゃないか。
それなのになんでこのチョイスなんだ!?
呆然とした俺の視線の端に赤い服が映った。
目玉だけ動かしてそっちを見ると、五右エ門の斬鉄剣と俺の帽子を預かったルパンが真っ赤な顔をしてこっちを見ている。
肩がふるふる震えているのは絶対笑いを堪えているからだ。
その証拠に。
「ぶ、ぷぷぷーーーーーー!!!!」
俺と目が合った瞬間、ルパンの奴、噴出しやがった。
そうだよ、俺がお前でも笑うよ、ああ、笑うよ、でもなんでこんなことになってるんだ!?
「笑うなルパン」
五右エ門が子供に言い聞かせるような口調でルパンを叱ったあと、俺の顔を覗き込だ。
「頭を打っていたからな。少しでも揺らさない方がいいと思ったのだ・・・大丈夫か?」
「・・・大丈夫だ、もう歩ける」
なんと俺は硝子の薔薇を両手で握った状態で、五右エ門に抱かれ・・・いわゆるお姫様だっこされていたのだ。
「アジトまですぐだから、もう少し休んでろ」
優しい五右エ門の口調。心底俺を心配して労わってくれているのが伝わってくる。
だがそういうわけにはいかない。男が廃る。
「ありがてぇが、ホンとに大丈夫だ。おろしてくれ」
このこっぱずかしい憤りは他意のない五右エ門には向けられねぇ。
五右エ門の暖かい腕の中から降ろされた俺は、いまだ声を殺して笑い続けているルパンに殺気を向けた。
「あ、先にアジトでコレ分析してるから、おまえらはゆっくり来いよ!」
慌てた様子でルパンは斬鉄剣と帽子を放ると、それを受け取っている隙に俺の手から硝子の薔薇を奪いとり一目散に走りだした。
あ、くそ!
追いかけたいが、五右エ門の手前、怒りを顕に追いかけることもできない。
「では、拙者たちはゆっくりと行くか」
穏やかに微笑む五右エ門を見て、体内を巡っていた憤りはスッと消えた。
「ま、たまになら・・・いいか」
お姫様だっこはいただけないが、五右エ門の暖かみを感じながらみた夢はなんだか幸せだった。
今度こいつをベッドに運ぶときにこのお返ししてやろうと心に決めて、ふたり肩を並べてゆっくりと歩いた。
 
 
 
 

■KAINANI DAKARETE NEMURU■
   

    
 
 
   
 ■あとがき■

ジゲゴエですよ、間違いなくジゲゴエです(^^)
たまにはこんなのもいいかなーと。
お姫様ダッコされる次元・・・・ぷぷぷぷっ

別にいいですよね?!?!
というか、私的には妙に似合うと思うのですがv
ぷぷっ

 
 
 

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