ルパンが浮かれている。
今にも踊り出しそうなほど足どり軽く、ステップを踏んでいるようにもみえる。
楽しげな鼻歌に乗せて聞こえてくるのはにゃんにゃんという歌声だ。
不二子ちゃーんという言葉も交じっているところからどうせあの女絡みだ。
次元は気持ち悪いものをみたような目でルパンを一瞥し、すぐに新聞に視線を戻した。
「次元、今日はなんの日か知ってるか〜?」
せっかく無視しているのにルパンは楽しげな声で問いかけてくる。
新聞の文字を目で追いつつ沈黙で答えるが、ルパンは気にしない様子で続けた。
「今日は2月22日!!にゃんにゃんの日だぜ〜♪」
なんじゃそりゃ。
心の中で激しく突っ込むものの、目の端に映ったニヤケタモンキーヅラにどうせいやらしいことでも考えているのが丸わかりで反応したくない。
にゃんにゃん、と口ずさみながらルパンは身なりを整え、プレゼントらしき小箱を懐に入れた。
きっとアレは先日苦労して盗って来たダイヤだ。
不二子行きだと知っていれば手伝ったりはしなかったのに、と次元は苛立ちながらチッと舌打した。
「今夜は不二子ちゃんとにゃんにゃんだぜ」
今時「にゃんにゃん」なんて死語も死語。アホかと思いながらも次元は完全無視を続けた。
カチャリ。
ドアが開き、五右エ門はリビングに入ってきた。
反応しない次元が面白くなかったのか、ルパンは矛先を五右エ門に変えたらしい。
ご機嫌な様子で五右エ門を振り返った。
「五右エ門ちゃん、おかえりー」
「・・・随分機嫌が良いな、ルパン」
いつもと同じ冷静さの中に微かに気持ち悪そうな色が交じっていることに次元は気がついた。
あのニヤケ、というかスケベヅラで「ちゃん」づけで呼ばれれば誰だってそうなる。
「だって今日はにゃんにゃんの日だぜ〜」
どこから取り出したのか、バサリと大きな花束を抱いてルパンは歌うように言う。
にゃんにゃんの日。そんな日ははじめて聞いた五右エ門である。
にゃんにゃんといえば猫を連想するがルパンが猫の日でこんなに嬉々とするはずはない。
ということは五右エ門が知らない何かなのだろうか。
そう思いながら、五右エ門は軽く首を傾げて問い返した。
「にゃんにゃん?」
ズドッ。
大きな音がして、ルパンと五右エ門が顔を向けると次元はソファーから滑りおちていた。
片手で帽子を押さえ、イタタタと腰をさすっている。
「そー、にゃんにゃん。知らない?」
ルパンはそんな次元を一瞥すると再び五右エ門に顔を向け、ニヤニヤと笑いながら言った。
「知らぬ。にゃんにゃんとはなんだ?猫ではないのか?」
ズベッ。
またもや大きな音がして、ルパンと五右エ門が顔を向けると次元が床に転がっていた。
「あーははははっ」
突然笑い出したルパンの声に五右エ門は少し驚く。
「俺様は不二子ちゃんとデートだから。続きは次元に聞いてくれ」
ゲラゲラ笑い続けながらルパンはキーをとり、花束片手にリビングを出て行った。
「なんだ、あやつは」
五右エ門は訝しげな視線でルパンを見送ると、次にその視線をようやく床から立ち上がった次元に向けた。
ルパンもおかしいが、次元はもっとおかしい。
「で、次元。にゃんにゃんとはなんのことだ?」
知らないことは知っておこうという、意外と好奇心旺盛な侍の言葉に次元はよろりとよろめいた。
「さっきから何をしておるのだ、おぬし」
次元は息を整え顔をあげ、いまだドアの前にたつ五右エ門をみた。
いつもどおりの表情、佇まい、声のトーン。
それなのにその口から「にゃんにゃん」なんて絶対聞くことができないような可愛い言葉が発せられているのだ。
これに反応しなくってなにに反応すればいいんだ。
「いや、なんでもねぇよ。・・・知りてえのか?」
「ん?」
「だから、さっきルパンが言ってた」
「にゃんにゃんの意味か?」
「・・・そうだよ」
またもやズキューンと心臓だけじゃなくいろんなトコを直撃されるが、今回は動揺を上手く隠して次元はニヤリと笑ってみせた。
どうせあの様子じゃルパンは当分帰って来ないだろう。五右エ門とにゃんにゃんする時間はたっぷりとある。
「じゃ、教えてやるぜ。来な。」
ソファーに座り直して人差し指を曲げて呼ぶと五右エ門は素直に近づいてくる。
さーて、どうやって料理してやろうか。
次元はにっこり笑って、目の前に立った五右エ門の手を掴んだ。
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