次元はルパンにとって特別だ、と不二子は思う。
ルパンは仕事のほとんどを次元と組む。
一緒にいることが、共に仕事をすることが、当たり前といわんばかりである。
不二子だって仲間に加わることもあるが誘われるのはたまにだし
（まあいつも裏切ってるから仕方がないが）、
次元と同じくつるんでいるようにみえる五右エ門だって毎回仕事に加わっているわけではない
（まあ、あの侍の性格から選り好みしている可能性も高いのだろうが）。
自分は馴れ合うつもりはないから別に構わないが、傍からみてると五右エ門は少し可哀想な気がしてくる。
役割分担なのかもしれないが、五右エ門は後方支援が多いし、いざというときルパンは次元と駆けていくのだ。
ひとり残された侍の心のうちはどんなのものだろうか。
どちらかというと次元より五右エ門に好意を持つ不二子は、たまにだがそんなことを考えてしまう。
それに自分のことだって。
好き好き愛してる、というわりに美人となれば自分を前にしてくどいだりする。
ヘソを曲げてみせればホイホイと戻ってくるからまあ許せるが、不愉快には違いない。
自分とルパンは普通の男女の関係じゃない。
単純そうで複雑で一筋縄ではいかない、いかせない。
そんな自分はルパンの特別だと自負しているが、やっぱり次元に負けてると思うこともある。
だから、ちょっと悔しくなった。
「貴方にとって次元は特別なのね」
何気ない会話のとき、何気なくさらりと、でも目は合わせずに不二子は言った。
ルパンは一瞬キョトンとしたが、すぐに笑って「俺の特別は不二子ちゃんだよ〜」と抱きついてくる。
お約束の言動でお約束通り不二子に張り飛ばされたルパンは、地面にボトリと落ちたあと、ヒヒヒと笑ってこう言った。
「今まで俺を裏切ったことがないのはあいつだけだがな」
成る程。
その言葉を受けてなんとなく納得した不二子だった。
　

　
不二子はルパンにとって特別だ、と五右エ門は思う。
確かに不二子は美人だ。頭もいいし行動力もある。
だが、そんな美点もあの物欲の前には霞んでしまう。
五右エ門だって実は不二子のことはそんなに嫌いではない。
だが、あの裏切りまくる不二子を前にすると腹だたしいという感情しか湧いてこないのだ。
自分はともかく、ルパンはかなり彼女に酷い目にあってると思う。
裏切られ、利用され、へたすれば命だって狙われたりする。
それなのに。
どんな目に合わされても、ルパンは懲りない、見捨てない、簡単に彼女を許す。
「裏切りは女のアクセサリー」
そのひとことでなにもかも許してしまうのだ。
自分が同じ目に合わされたら決して許さないだろう。
だがルパンは許す。
一時的に不二子を怒っていたとしても彼女を前にすればルパンはすぐにそれを忘れる。
ヘタすれば自分たちを切り捨てても、裏切ることのわかっている不二子を取ることさえあるのだ。
はっきり言って、怒るより、呆れる。
だがきっと、それは不二子がルパンにとって特別だからなのだろう。
そう割り切りたいけれど、今日みたいにお宝をごっそり不二子に持っていかれた日には嫌味のひとつもいいたくなる。
「おぬしにとって不二子は特別なのだな」
ルパンは一瞬キョトンとしたが、すぐにニヤリとした笑いを浮かべた。
「俺を退屈させない女は不二子だけだ」
成る程。
その言葉を受けてなんとなく納得した五右エ門だった。
　

　
五右エ門はルパンにとって特別だ、と次元は思う。
基本的にルパンは裏切りを許さない。
自分の命を狙った相手も絶対に許さない。
かならず相手には命をもって償わせる。
一見ちゃらんぽらんに見えていても、そういうとことでは厳しい男なのだ。
それなのに。
ルパンは五右エ門をあっさり許す。
敵に寝返っても、唆されて裏切っても、挙句に命を狙われて傷つけられても。
五右エ門がルパンに敵対したのは、１回や２回じゃない。
だいたい元々五右エ門はルパンの命を狙う殺し屋だったのだ。
何度も決闘した。ルパンも無傷ではいられなかった。
なのにルパンは五右エ門を殺さず仲間にしたのだ。
その時点でもう普通ではない。
腕は立つが単純で素直で頑固な侍は情に流されやすく騙しやすい。
簡単に甘言に惑わされて敵方についてしまう。
それでも五右エ門はルパンに殺されることなく仲間としてここにいる。
五右エ門を許すルパンの気持ちはまあわかる。
わかるけれどルパンのダークな部分を良く知る次元はたまに不思議な気持ちになる。
「おまえにとって五右エ門は特別だよなぁ」
あっさり許された五右エ門が部屋から出て行く背中を眺めながら、次元はぼそりと呟いた。
ルパンは一瞬キョトンとしたが、すぐにアハハハと声をあげて笑った。
「馬鹿な子ほど可愛いっていうじゃないか」
成る程。
その言葉を受けてなんとなく納得した次元だった。