最高の食事のあと、最上階のスイートルームに場所を移した。
夜景が見える窓辺にセッティングしたテーブルにはバラの花と冷えたシャンパン。そしてその横に小さな包み。
ゴージャスに着飾った不二子の首にこれまたゴージャスなダイヤのネックレスを嵌めたルパンは「似合うぜ」と言いながら柔らかい髪を一房掌に乗せ軽くキスをした。
「ありがとう、ルパンv」
その存在を確認するように指先でネックレスを弄びながら不二子が満面の笑みを浮かべる。
ルパンは椅子に座るとシャンパンをあけ、不二子と自分のグラスに弾ける透明な液体を注いだ。
「君の美しさに乾杯」
「ふふふ。最高の夜に乾杯」
チン。とグラスが触れ合う音。
最高級のシャンパンを一口飲んで、ふたり見つめあう。
計画通りだ!
とルパンは心の中でガッツポーズを取る。
最高の食事、最高のスイートルーム、最高のプレゼント、そして最高の夜。
いつもはこのあとに油断して、シューとか眠り薬を嗅がされ、バタンキューとなったところで不二子に逃げられる。
というのがお約束のパターンだ。
だが、今日はそうはいかない。
不二子の身も心もメロンメロンにして反対に「抱いてv」なんて言わせるのだ、今日こそは。
そのために、苦労して、仲間を実験材料にして、完成させたのだから。
「ルパン、これは何?」
不二子がテーブルの上の小さい包みを指差した。
「あけてごらんよ」
ルパンは、予定通りで飛び跳ねたいくらいの心情をぐっと押し殺して微笑んでみせる。
「いいの?」
「全然高価なものじゃないけど、俺の気持ちさ」
不二子の指が赤いリボンをほどいていく。
真赤なマネキュアが塗られた形のよい爪とそれを飾る白い指。
なんて官能的でなんて優美なんだ、と気障ったらしいことを考えながらも下半身は俗物的に反応し始める。
あ、いかん、いかん。もう少し我慢我慢。
ルパンが逸る気持ちを押さえ込んでいる間に箱は開けられ小さなチョコレートがあらわれた。
「え?これは?」
「既にあるものを手中に収めるのは俺には簡単なことさ。だが形がないとことから創り出すのはなかなか難しい」
そう言ってルパンは両手をヒラヒラと広げてみせた。
数本の指に巻かれている絆創膏。
「ルパン、あなたが作ったの?」
「君のために、不二子」
まあ、と不二子の目が驚きに見開かれる。
そして微かに頬を染め、ありがとう、と小さく呟いた。
「食べていいかしら?」
「是非に。俺の愛がたっぷり込められているよ」
不二子の指がチョコレートを摘む。
ゆっくりと真赤な口紅の塗られた唇へチョコレートが運ばれる。
早く、喰え。早く早く。
そう思っているルパンの唇にふいに不二子の手が伸びた。
それは一瞬の出来事で、なにが起こったのかまだ理解できていないルパンの口の中にチョコレートが押しこまれる。
不二子の長い指が口内まで差し込まれ、チョコはあっという間に喉まで届き、その刺激にルパンは無意識に飲みこんでしまった。
「む、むぐっ」
ドンドン胸を打つルパンを不二子が楽しげに見つめる。
「ふふv美味しい?」
「・・・・・・ふ、ふ〜じこちゃ〜ん」
媚薬入りのチョコレート。
いきなりだったとはいえ、食べさせられてしまった。
アイタッ、とは思ったもののはじめからヤル気満々のルパン。
今更性欲が少しばかり増したとしても問題はない。
あとは不二子に一粒でも食べさせることだ。
「俺の気持ちを俺が受け取ってどうするの。不二子ちゃんが受け取ってくれなきゃ」
「でもね、ルパン」
「なーに?」
「貴方の気持ちは嬉しいけど、お食事が最高で食べすぎちゃって・・・今日はこれ以上カロリーを取りたくないのよ」
「そ、そんなこと言わないでさーー!」
ルパンは立ち上がると、不二子の手をスイッと取って立ち上がらせる。
「俺の気持ち受け取ってよ、不二子ちゃん」
摘んだチョコを不二子の唇にそっと押し付ける。
乱暴には動かないがルパンは必死だった。
ここで上手くいかなければ今までの苦労はパア。甘い夜は訪れない。
ダンスをするようにステップを踏みながらルパンはベットに近づいてそのまま不二子を押し倒す。
白いシーツの上に豊かな長い髪が広がる。
困ったわね、といった表情を浮かべ、不二子は唇をそっとあけた。
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