■KISS ME (後編)■
 
 
 
 

 
きっかけは何気ない次元の一言だった。
キスのあと、すっかり体の力が抜けた五右エ門を抱きしめて、次元が楽しげに言ったのだ。
「キスひとつでメロメロだな」
「なっ」
顔を真っ赤に染めて五右エ門はもがくが、巧みなキスのせいで既に体に力が入らない。
「怒るな、からかってるんじゃねぇよ」
そう言いながら再び唇を吸う。
絡み、口内を蠢く舌の動きは五右エ門から抵抗力を簡単に奪う。
好き放題にされるのが悔しくって五右エ門も積極的に応えるが、次元はビクリともしない。
余裕の態度と主導権を握ったままの情熱的なキス。
ようやく唇が離れたとき、五右エ門は息を荒げながら次元に問うた。
「・・・なぜ、おぬしはそんなに余裕綽々なのだ」
「お前もなかなか巧くなってるぜ?」
次元が楽しげに答える。
文句を言いながらも既に潤んだ瞳、上気した顔。
それらはキスよりも簡単に次元の情欲を煽ることを五右エ門は知らない。
「第一仕方ないだろ?お前のキスは俺のキスだ」
言っている意味がわからない五右エ門が考え込むよりも早く次元は次の行為に移る。
次々と迫り来る快楽に、五右エ門はそのときその意味を理解することが出来なかった。

すべてが終わって冷静になってよくよく考えて侍はその真意に辿りつく。
五右エ門は色事に関して経験値が低い。
全然なかったとはいわないが、あまりそういった行為をしたことがなかった。
現在、五右エ門の経験値がかなり上昇したのはひとえに次元のせい、というかおかげである。
五右エ門は次元から行為のアレやコレやを覚えたのだ。
つまり五右エ門の所作は次元の所作。
どうあがいても教えられている側が教えている側のテクニックを越えることは難しい。
次元以外の人間と性交渉に及ぶ意志は五右エ門にはない。
ということは、このままずっと次元に負けっぱなしということだ。
それはとても悔しい。
せめてキスぐらいは勝ってみたい。
そこでウンウンと五右エ門は悩んだ結果、他の人間に指南を乞うという結論に至った。
手取り足取り教えてもらうわけにはいかないが、言葉でコツを教えてもらえばいいのだ。
言葉でのみの指南となれば、かなり経験豊かな人物でなければいけないだろう。
それで、ルパンと不二子に白羽の矢を当てた。
このふたりに相談、というのはかなりの恥ずかしく相当な決意が必要だった。
だが、次元に勝ちたい。一矢報いたい。
という気持の方が遥かに強く、五右エ門は意を決して、こそりとそれぞれに相談したのだ。
ルパンも不二子も相談を受けて、最初に驚き、次に面白そうに、たまにからかいながらも、五右エ門に指南してくれた。
それを丁寧にメモにとり、日々黙々と修行を積んだ侍は今日その成果を披露したのだった。


「「で、どうだった(の)?」」
ふたりの声がハモる。
相談を受けたその後は、どうなったのかと気にしていたが、何も変化のない次元と五右エ門をみて「あれ?」と思うこと幾度。
それを繰り返しているうちにすっかりと忘れてしまっていたのだ、こんな楽しいことを。
だが、それも仕方がないと思う。
だって相談を受けたのはもう何ヶ月も前。
その間ずっと忘れず練習していた侍はさすがといえばさすがだが、結局どうなったのかそれを知りたい。


ソファーに座った次元の上に乗りかかると、驚いた顔をした。
その表情がおかしくって少し笑ったあと、五右エ門は唇を重ねた。
啄ばむように何度も軽く合わせて、舌先で唇の輪郭をなぞる。
ピクと反応したことに気を良くし、五右エ門はゆっくりと次元の口内に舌を侵入させた。
上向いた次元にキスする、その体制にも興奮を覚える。
それだけで主導権を握れたような気がするからだ。
その興奮をグッと抑え、五右エ門は修行した通りに舌を動かし、次元の唇を貪った。
主導権を取り返そうと次元が動く度に、ふたりに教えられた次元の知らない動きを披露する。
そのうち次元の抵抗がやみ、五右エ門のなすままになった。
長いキスを終え五右エ門が顔を離すと、次元は放心したような表情を浮かべていた。
「勝った!」という喜びが体を駆け抜ける。
「おまえ・・・どうしたんだ」
五右エ門の体を引き寄せ抱きしめると次元が耳元で囁いた。
「すげえ、気持よかったぜ」
「そうか、修行した成果があったな」
上機嫌に答えて五右エ門は目の前にある首筋に唇をあてた。
そこにしっとりと汗が浮いているのに気がついて、五右エ門は益々嬉しくなる。
「・・・修行?」
だから次元の声色が微かに変わったことに気がつかなかった。
だから迂闊に答えてしまった。
「そうだ。とある人物にテクニックを伝授してもらった」
ピキッと空気が固まったような気がして、五右エ門は体を放し次元をみたが、次元はいつもの笑みを浮かべているだけで変わった様子はない。
「とある人物って?」
そう問われて、五右エ門は思い出す。
指南の条件は誰から教えられたかを言わないこと。
「内緒だ」
そう言って五右エ門はクスクス笑って、ふたたび次元の唇に己の唇を合わせた。


「「・・・・・」」
話を聞き終わったふたりはゴクリと喉を鳴らした。
勿論赤裸々に語られた話の内容に興奮したからではない。
さっきの次元の行動の理由がわかったからだ。
五右エ門のテクニックがどこまで上達したのかはわからない。
だが、数ヶ月に及ぶ練習、それもルパンと不二子のふたりが教えたテクニックだ。
かなり良いレベルまで到達していたのだろう。
それを受けた次元は思ったはずだ。
『いったい誰から教えられたのか』
そしてその教えが口頭による伝授だとは思いもしなかったのだろう。
つまり『いったい誰から実地で教えられたのか』と考えるに決まっている。
その考えを基にして五右エ門の周りを見渡し弾き出された結論は。

ルパンか不二子。

「ちょっと、マズイわよ、ルパン」
「今のあいつに何を言っても信じねぇだろうな」
誰が五右エ門にキスを教え込んだのか。
言葉で問うても答えないだろうと考えた次元は、同じく実地で確認しようとしているのだ。
そして犯人をみつけだしたならば・・・嫉妬の鬼と化した男は迷わず拳銃を向けるだろう。
ブルリと全身に震えが走る。
いつの間にか背後に人の気配があった。
ルパンと不二子たるもの、気がつかなかったとはなんたる迂闊。
「さ、わかったならあっちで確認作業をさせてもらおうか?」
ふたりの肩にポンと次元の両手が置かれる。
口調は優しいが、その手は微かに震え、痛いくらいに指が肩に食い込んでくる。
「次元、とりあえず話を・・・」
「ああ、話はいいんだよ、いらねぇ」
次元に拳銃を向けられることは怖くない。怖いのは次元とキスをしなくてはいけないことだ。
それも、よりにもよってディープキス。
冗談じゃない!!
ルパンと不二子は同時に肩に置かれた次元の手を掴むと、エイッとばかりに投げ飛ばした。
ふたりがかりの攻撃にさすがの次元も空を舞い、対面に座っていた五右エ門の膝の上に落ちる。
「五右エ門!!内緒になんかしなくっていいから、次元にちゃんと説明しておけっ」
ドアに向かって走りだしながら、スビシと侍を人差し指で指す。
「なっ、そんな恥ずかしいことは拙者には言えん!!」
黙々と何ヶ月も練習していたなんて確かに恥ずかしいかもしれない。
だが、今は決して言ってはいけない台詞だった。
「恥ずかしいだと!?てめえら五右エ門に何しやがった!!」
「「五右エ門のバカーーーーーーーーー!!!!」」
拳銃の音と男女ふたりの叫びのハーモニーがアジトに響き渡る。
 
 
 
 
真の敵は天然の侍。
ルパンファミリー壊滅の危機。
 
 
 
 
 

■KISS ME■
 

    
 
 
  
 ■あとがき■

次元の暴走原因、途中でわかっちゃったでしょうか。
オバカなオチですみません(笑)
五右エ門がどんな風にして一生懸命練習したのか定かではありませんが
そうぞうすると笑えるかも。
とか思っておりますです、ハイ。

どちらにせよ、このお話は暴走次元でお送りいたしましたv
お粗末さまでした!

 
 
 

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