■弱点2■
 
 
 
 

 
ちょっとした意見の食い違いだった。
いつものごとくルパンはルーズだとか女に甘いとか、そんなことが発端で大した原因ではなかったような気がするが、もうよく覚えていない。
とにかく珍しく次元と五右エ門は口論し、最後には次元が五右エ門を子供に対するような態度で軽くあしらって終了した。
口論の内容とか、原因とかはもうどうでもよかった。
未だ五右エ門の中で怒りが燻っていて収まらないのは、次元の自分に対する『子供扱い』だった。
確かに世間の常識に疎いというのは自覚しているが、五右エ門だって成人した男だ。
それを同じ立場の仕事仲間に子供扱いされては腹立たしいこと極まりない。
苛々と怒り続ける五右エ門はどうにかして次元の鼻をあかしてやりたいと、腕を組み考え込んだ。
だが、どんなに考えても所詮根が正直で真っ直ぐな侍。
卑怯な手や姑息な手などは思いつかない。
考え疲れた五右エ門はせめて次元が驚いたり慌てたりする姿をみるだけでもスッキリするだろうという結論に至った。
そして五右エ門にはひとつだけ思い当たることがあった。
次元の弱点。
以前次元本人が言っていたものだから、もしかしたら嘘かもしれないが意外と本当かもしれない。
それを実行するには五右エ門にも相当の勇気が必要になる。
だが、もしそれが次元の弱点ではなかったとしても驚かせることは出来ると思うのだ。
五右エ門が同じことをされれば気持ち悪いし嫌なことだ。
まあ、嫌がらせみたいなものだろう。
五右エ門だってそれをすることには抵抗があるし、気持ち悪さが自分に跳ね返ってくる可能性はとてつもなく高い。
それでも。
次元の慌てふためく姿がみたくって、五右エ門はそれを実行する決意を固めた。


リビングのドアをあけるとソファーに座った次元が愛銃の手入れをしているところだった。
マグナムを細かく分解し、隅々まで綺麗に磨き上げている。
これならば、少しくらい驚かせても銃を突きつけられることはなさそうである。
五右エ門はゴクリと唾液を飲みこんで自分に発破をかける。
よし!と強く頷くと、次元の背後へ近づいていく。
もちろん警戒心を起させないためにも気配は消さず、何気なさを装ってソファーの後ろに立った。

次元は五右エ門が並々ならぬ決意を固めて近づいてきていることに気がついたが、素知らぬ振りをする。
さっき口論の末、子供扱いしてしまったからきっと怒っているのだということは予想がつく。
仕返しをしようと思っているのかもしれないが、所詮侍のすることである。
斬鉄剣さえ振り回さなければ怖れるに足りないのだ。
なんといっても単純、根が正直すぎる。

何気なさを装ったふたりの間にほんの少しの緊張が走る。
そして。
背後から五右エ門の両手が次元の首や肩に巻きつけられた。
締め上げられるのかと一瞬次元は身構えるが、五右エ門の腕は力が込められるでもなくやんわりと次元を抱きしめているだけだ。
なんだ、なんだ、と内心焦るがそれを表には出さないガンマンは、一見動じず冷静にみえる。
五右エ門の手が長い次元の髪をすくい、首筋を露にさせた。
そこに五右エ門の顔が寄せられる気配。
そして耳にフッと息が吹きかけられた。
突然の思わぬ刺激に次元の体がビクッと震えた。
それを感じた五右エ門はニヤリとほくそ笑む。
やぱりここが弱点なのは本当だったのだ。
以前次元は「耳」が弱点だといっていた。息を吹きかけられたり舐められたりするとゾクゾクすると。
勿論それはセクシャルな意味だったのだろうが弱点は弱点。
それを男にされるとなると気持ち悪さの相乗効果が期待できると、五右エ門捨て身の作戦だった。
ここまで来たら怖いものはない。ヤルなら最後までヤリとげる漢らしい侍である。
何度か息を吹きかけたあと、舌先でネロリと耳朶を舐め上げた。
ビクビクっと腕の中の体が大きく反応する。
ニヤリと笑って、五右エ門は次元の耳に軽く噛み付いた。
その瞬間。
五右エ門の視界が反転し体が宙を浮いた。
ドスッと背中に軽い衝撃を受けて一瞬目を閉じる。
全身に押さえつけられる重みを感じすぐに閉じた目を開くと、至近距離に次元の顔。
次元は回された五右エ門の腕を掴んだまま突然立ち上がり、引き摺られてきた体をそのままソファーに落とし圧し掛かったのだった。
あっという間に侍はガンマンにソファーに押し倒されたような体勢になっていた。
「俺の弱点をよく覚えてたな」
次元が目を細めて笑って言った。
その目の不穏な色に気がつきながらも五右エ門はニヤリと笑った。
「無論だ。驚いたか」
「ああ、驚いたよ、だが覚悟があってのことだろうな?」
満足気な五右エ門だったが、次元の言う「覚悟」の意味がわからず微かに眉を顰めた。
「お誘いと受け取っていいんだよな?」
次元の顔が五右エ門の首筋に落ち、肌をねろりと舐めあげた。
「なっ!?」
「子供扱いされて怒ってたんだろ?今度はちゃんと大人扱いしてやるからよ」
次元の手が着物の合わせ目の中に差し入れられる。
そして滑らかな肌を掌で撫ではじめた。
指先が胸の突起を掠る、その間も濡れた舌が首筋や鎖骨を這っている。
ゾクリと五右エ門の背筋に悪寒に似た何か走る。
そんなつもりではない!ただ次元に一矢報いたかっただけだったのだ。
「ち、違うっ」
バタバタ大暴れして五右エ門は必死になって次元の下から逃げ出そうとした。
だが、押さえつけのポイントを抑えているのか簡単には抜け出せない。
「なにが違うんだ?」
「だから拙者はおぬしに仕返しをしようとっ」
「そんなの俺には関係ないね」
手が滑り落ちて五右エ門の脇腹を撫でる。
サラシの上からだから効果が薄いのを知っている次元は肌に強く刺激を与えるように爪を立てて引っかいた。
五右エ門の体がビクンと仰け反る。
笑いにまで発展しない刺激は舌の動きに連動して快感のような感覚を五右エ門に与えた。
「すまぬ、拙者が悪かった!!もうこんなことはせぬっっ!!!」
半泣きになって謝る侍を、次元はようやく解放してやった。
「これに懲りたら大人気ない行動は慎むんだな」
ソファーを転がり落ちて次元の手から完全に逃げ切った五右エ門が悔しそうに次元を睨みつける。
「なんだ、まだ足りないのか?」
ニヤリと笑って手を伸ばすと、その手をパンと弾いて五右エ門は後方に逃げ去った。
乱れた着物の合わせ目を両手で引き合わせながら、顔を紅く染めて
「覚えておれよ!!」
悪党が吐くお約束な台詞を放って、肩をいからせながらリビングから出て行った。
ドアがバタンとしまり、廊下にドスドスという足音が響く。
次元はソファーに腰を下ろすとクククと喉の奥で笑いだした。


部屋の隅には完全に蚊帳の外、完璧に無視されていた男がひとり。
はじめからリビングにいてすべてを目撃してしまったルパンはゲンナリとした表情で大きく溜息を吐いた。

 
 
 
 
 

■JYAKU TEN-2■
   

    
 
 
   
 ■あとがき■
「弱点」の続き。セクハラ次元。
でもやっぱ恋仲でも片想いでもない普通状態。
のつもり(笑)
いくら仲間でもうちの次元はルパンに対して(というか男相手に)セクハラ行動はしません。
それなのに五右エ門相手になるとカラカイ半分とはいえ
こんなことヤっちゃうという根本ジゲゴエ。
ルパンは男同士、それも仲間のイチャぶりを
目の前で見せつけられてちょっと可哀想かもしれないけど
ケンカの原因はルパンの行動についてだったから、
一番仕返ししなくてはいけない人に仕返し出来たということになるかな。
自業自得?<違う



 
 
 

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