仕事だと呼び出されて既に十日以上。
タイミングが大事だと言うその仕事は未だ取りかかれず、アジトで待ち状態であった。
当初の緊張感は緩んでしまい、ルパンも次元ものんべんだらりと過ごしている。
部屋の中からTVの音とナハハと笑うルパンの声。
その横のソファーには次元が煙草を吹かしながらゴロリと寝そべっている。
ただ一人、五右エ門だけはかわらずにいた。
時間があるなら修行をすればよい。その場所がないなら瞑想すればよいのだ。
ありがたいことにこのアジトは小さな庭がある。
素振り程度ではあるが体を動かすことはできる。
朝から一汗流した五右エ門は庭の真ん中にドカリと座り込み、現在精神修行の真っ最中であった。
外界を遮断していた五右エ門だったが、近づいてくる気配に敏感に反応する。
しかし、それは慣れ親しんだ男の気配。敵ではない。
そう一瞬で判断してそのまま瞑想を続ける。
空気の動きで男が前に座ったのを感じる。かなり接近しているのか温かみが微かに伝わってきそうだ。
と思ったときに、頬に大きな手が添えられた。
スルリと白い頬を撫でてそのまま首筋へと移動する。
耳朶や首筋でザワザワと指先が蠢いた。
反応せず無視する五右エ門の顔の横にあった手がスルリと滑り落ち大きく開いた合わせ目の中に忍び込み、胸に息づく小さな突起に触れようとした。
が、ガシリと手首を掴まれてその動きは封じられてしまった。
目を開いた五右エ門がキツイ眼差しで悪戯を仕掛けていた次元を睨みつける。
五右エ門の意識が自分に向けられたことに満足したのか、次元はあっさりと手を引いた。
胡坐をかいた次元が体を前に倒し、下から覗き込むように五右エ門を見上げる。
いったいなんなのだ、と少し腹立たしさを感じながら無言で次元を見下ろした。
しばらくじっと見詰め合っていたが、次元がニヤリと微笑んで言った。
「なあ、五右エ門。やらねぇか」
言っている意味がわからず、五右エ門は眉間に皺を寄せた。
修行を中断させてまで何を誘いに来たのだ、この男は。
「何をだ」
「何ってナニをだよ」
ぐい、と次元の顔が近づく。
口元は笑っているのに目には一欠けらの笑いはない。
次元の言葉に一瞬押し黙った五右エ門だったがすぐに意味を理解して顔を真っ赤にした。
「なっ!?い、いきなり何を言い出すのだ!!」
少しでも遠ざかろうと無意識に仰け反った体を追いかけるように次元がズイとにじり寄ってくる。
「いきなりじゃねぇよ。ずっと我慢してたんだぜ」
低く欲の篭った声。
五右エ門を見据える目はすっかり欲情の色に染まっている。
煩悩を追い払うのは修行の一環だというのに、この男はいとも簡単に己を欲に引きずり込む。
ゾクリと背筋を走った感覚を振り払おうと五右エ門は頭を左右に振った。
「ルパンがいるであろうっ」
拒否する理由がルパンであることからも既に次元の掌中に収まっていることに五右エ門は気がついかない。
次元はふっと笑って、耳元に唇を近づける。
「あいつは用事があるとかで、さっき出かけていったぜ。今ここには俺達ふたりきりだ」
ペロリと耳朶を舐めると五右エ門の体がビクリと震えた。
元々仲間で付き合いは長いが、こういう関係になってからも随分経つ。
五右エ門がなにに弱いか、どんな言葉が陥落しやすいのか次元はよく知っていた。
乱用すると効果がなくなるからあまり使わないが、性急にことを進める必要のある今このときに使わずにいつ使うのだ。
とばかりに、次元は硬直している体をやんわりと抱きしめて甘く囁く。
「…お前の奥まではいりてぇ。なぁ駄目か?」
首筋に舌を這わせ肌の味を味わったあと、顔を少し離し真正面から五右エ門の目を覗き込む。
逃げることは無駄だと思わせるだけの力を持つ野獣の瞳に見据えられて、五右エ門は諦めたように瞼を伏せた。
フェロモンを撒き散らす次元には勝てない。
こんな姿を次元は滅多に見せないが、見たら最後五右エ門には抵抗する術がないのだ。
引きずられて煽られて落とされて溺れるしか道はない。
「おぬしは・・・本当に凶悪だ」
陥落した五右エ門を立ちあがらせると次元はその腰に手を回し、久々の愉しい時間を過ごすべく屋内に恋人をいざなう。
タイムリミットまであと2時間50分。
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