合鍵

■合鍵■

荒い息を吐きながらレゴラスが崩れ落ちた。
押しつぶさないように気をつけてはいるがフロドに覆いかぶさった状態だ。
合わさった胸からお互いの鼓動が響き合う。
未だ繋がったままの場所はジンジンと快楽の余韻を発している。

暫くして呼吸が落ち着くとレゴラスは体を起こして結合を解いた。
排出する感覚に華奢な体が震えるのを楽しげに見つめる。

「フロド、すごく感じるようになったよね」
「･･･え？」
「最初は大変だったけど、今ではすっかり私に馴染んで悦んでる」
「な、っ何を言い出すんですか！」

あからさまに言われてフロドの顔が真っ赤に染まる。
確かに本当のことだが、だからといってわざわざ言うことではない。
とフロドは思うが、レゴラス的には違うようで。

「とても嬉しいよ、フロド」

幸せそうに微笑み甘く囁きながら軽く口付けられて気が削がれてしまう。

こういう行為は人に知らせたり言葉にしたりするものでないとフロドは思っているが、レゴラスにとっては愛する者同士の神聖な行為。
だから隠す必要もないし、思ったままを口にして良い、と思っているのだ。
感覚の違いは種族の違いなのか、個体の違いなのかはわからないが、少なくともフロドとレゴラスでは天地ほどの差があるようで、フロドにとってそこが悩みの種でもあった。
意を決して人に相談しても惚気だと言われて相手にしてもらえないから、結局レゴラスの言動を甘受するしかないフロドだった。

「でも、こんなに私に慣れてしまって・・・嬉しい反面心配でもあるんだ」
「･･･え？」
「これから私たちは長い間離れてしまう。その間フロドが一人寝に耐えれるかな、と。
君が私を欲しがって体を疼かせてもなにもしてあげられないのが辛いよ」
「なっ！」

あまりな内容にフロドはとっさに反応が出来ない。
冗談でも揶揄でもなくレゴラスが本気で言っているのが伝わってくるから、また性質が悪い。
だが、羞恥を捨ててよく考えてみると確かに一理あるのだ。
レゴラスによって拓かれた体は抱かれる悦びを知っている。
気が遠くなるくらいの快楽を与えられ我を忘れてしまうこともしばしばだ。
実際にレゴラスと会えない期間に彼を思い出して体を疼かせたことがないとは決して言えない。

「君という扉を開くことが出来るのは私だけだ。だから合鍵を作ってみたんだ」
「･･･は？合鍵？」

確かにさっきふたりの関係を扉と鍵に例えはした。
しかし、例えは例えだ。
キョトンとしたフロドににっこり微笑みかけてレゴラスは寝台から抜け出し、部屋の隅に置かれていた自分の荷物から何かを取り出した。

「これだよ！君にプレゼントしようと作ってみたんだ」

手にしたものを差し出しながら寝台に戻ってくるレゴラスをフロドは唖然として見ていた。
見ていたのはレゴラスでなく手の中の「合鍵」と言われるものだったが。

「大変だったんだよ、これを作るのは。すごく時間がかかったけどフロドの喜ぶ顔を見たくって頑張ったよ」
「まず、マルの木を探してね･･･幹が柔らかくて弾力があるから材料としては最適なんだけど、珍しい木だからなかなか見つからなくって」
「その枝を削って形を作って･･･リアルにしなくちゃいけないから見ながら削るにしても大変で」
「一回り小さく作ってからゴムの木の樹液を塗ったんだ。薄く塗って乾かしてを何百回も繰り返して」
「苦労の甲斐あって、みてよ、フロド。見た目も弾力もしなり具合も完全に再現できたんだ！」

作るのがいかに大変だったかと切々と語った後、手にあるものをフロドの目の前に突き出した。

はじめはそれが何かはわからなかった。
だが、何かを理解したときフロドは驚きのあまり固まってしまった。
目の前に差し出されたソレ。
認めたくはないが見慣れたモノだった。
確かに自分の記憶にあるソレと確かに寸分変わらないようにみえる。

「･･････なぜそれが合鍵なんですか･･･」
「なぜって･･・何を言っているんだい、フロド。君の鍵穴にあうの鍵は私のモノなのだから、それに似せて作ったコレは合鍵みたいなものでしょう？同じように使えるし。これで切ない夜を乗り越えておくれ」

フロドの体が小刻みに震えだす。
それを喜びと感動の現われだとレゴラスは受け取った。
そして、よせばいいのに最後の一押し。

「そうだ、さっそく使ってみる？コレがどこまで本物に近いかはフロドじゃないとわからな――」

レゴラスは最後まで言い切ることは出来なかった。
代わりに鳴り響いたのはフロドの羞恥と怒りの篭った叫び声と、物が壊れる音であった。

そののち。
海を渡ったフロドは自分のために用意された家の寝台の上でソレを見つけ呆然とした。
綺麗に包まれてリボンがかけられていたソレは、フロドへの愛のプレゼントだと説明された、他のエルフがレゴラスから預かってきていたのだった。

再会までの長い時間。
その合鍵が使われたかどうかは････フロドのみが知っている。
　
　
　
　
　