恋人の証明（12）

　
　　
　
■恋人の証明（12）■
　
　
　
暖かな日差しを感じてフロドが目覚めると、太陽が真上で燦々と輝いていた。
いつの間にか闇は払われ、明るい森がフロドを包み込んでいる。

そんな優しい風景に反して、身体は泥のように重かった。
まるで鉛を飲み込んだようだ。
それでもゆっくりと身を起こしたフロドは無意識にレゴラスの姿を探した。

しかし、木の陰にも、枝の上にも、森の奥にも、姿どころか気配ひとつ感じることができない。
フロドはどことも知れぬ深い森の中にひとりぼっちだった。

小さい溜息を吐いたフロドは自分が柔らかい草のベットの上に敷かれたエルフのマントの上に寝かされていることに気づいた。
躯も綺麗に清められ、汚れひとつついてない。
きっとフロドが意識を失ったあとにレゴラスが丁寧に清め、この場所に運んでくれたのだろう。
ふと視線を下ろすと、自分の躯の所々に赤い痕が散りばめられているのがみえて、昨夜の出来事が夢ではないとフロドに知らしめた。
痕がなくとも体内に残る異物感と重く痛む腰がすべてを物語っているのではあるが。

昨夜のことを思い出すと躯が震え涙が溢れ出しそうになる。
しかし、それは行為に対するものではなかった。
確かに無理矢理躯を繋がれたショックは大きかったし、行為に対する恐怖も感じた。
だがそれ以上にフロドの心を占めたのはレゴラスの絶望に満ちた姿だった。

フロドを抱きながらもレゴラスは泣いていた。
涙を流していただけではなく、全身で悲しいと辛いと、こんな仕打ちをフロドに強要する自分自身を責めて、だがそんな自分を止められぬと、叫んでいた。

はじめはレゴラスの言動の意味がわからずに戸惑い哀しんだフロドだったが、最後には彼がなにか誤解していることに気がついていた。
なぜ彼がそう思い至ったのか、その経緯はわからない。
だが確実にレゴラスは、フロドが他の女性を愛しているのだと、その心が既に自分にないと思い込んでいるのだ。

『レゴラス・・・』

彼を探さなければ、誤解を解かなければ。
そう考えながら彼の名を呟いて、フロドは驚いた。
声が出ない。
昨夜、泣き喚き続けたせいだろうが、すっかり枯れてしまって空気を吐くような掠れた声しか出ないのだ。
喉を潤そうと周りを見渡すと、すぐ近くに綺麗な水を湛えた湖があり、その側には果物や木の実などの食べ物が置かれていた。
草のベッドといい、用意された食物といい、レゴラスの根本的な優しさはなにも変わっていないということがフロドに伝わってくる。
ただひとつの、だが大きな誤解が彼を狂気に走らせているだけなのだ。

そう思うと、安堵と共に、底知れぬ恐怖が湧き上がってくる。
不死のエルフを死に至らしめる方法を思い出したのだ。
悲しみ、苦しみ、苦しみ、そういった心の破壊が命を奪い取る。
誰からかそう聞いたことがある。

自分がそこまでレゴラスに影響を与えることが出来るなんて自惚れてはいなかったが、昨夜の彼の様子を思い起こすと、その可能性が高いのではないかと思わずにはいられない。
愛を失ったことだけでない。
止められない、暴走する自分自身の言動に苦しみ絶望しているのではないのか。

このままではいけない。
どうにかして誤解をとかなければ。

こんなときに身も心も弱ってはいられないと、フロドは重い躯をひきずり水を含み喉を潤す。
そして、用意された食物を口にした。
暖かい日差しの中、眠っては食べ、ゆっくりと躯を癒しながらレゴラスの訪れを待つ。
だが、空が茜色に染まっても、夜の帳が落ちてきても、レゴラスは現れない。
月すら傾く時刻に待ちくたびれたフロドがウトウトとしていると、この数日幾度とみたあの淫夢がはじまった。

自らを優しく柔らかく包み込む温かいなにか。
懐かしく心を落ち着かせる新緑の匂い。
ヌルリと濡れたような滑るような感触。
蕾に何かが塗り込められている。
下肢に痺れるような快感が広がっていく。
忍び込んだ指がゆっくりとゆっくりと体内を掻き回してくる。
ヌチャヌチャと何か淫らで厭らしい水音が蕾から洩れてくる。

夢の中の音が大きく響いたような気がして、フロドはハッと目を覚ました。

　
　
　
　
　

（13）へ