■恋人の証明(10)■
フロドはふと目を覚ました。
いつの間に眠っていたのだろう。
ずっと夢をみていたような気がする。
ぼんやりと天井をみつめる。
真っ暗だ。
まだ真夜中なのだろうか。
随分長く眠っていたような気がするのに。
天井に瞬く美しい星々。
新緑の香りを含んだ柔らかな風がフロドの頬を優しく撫でる。
なんて気持ちがいい夜の森だろう。
そこまで考えてフロドは完全に意識を覚醒させた。
バッと起き上がり辺りを見渡すと、見知らぬ森の中だ。
白いシーツでなく、柔らかい草の上に躯を横たえていたのだ。
「なっ?」
なぜこんなところで自分は眠っていたのだろう。
よく知るホビット庄の森ではない。
見知らぬ場所でひとり自分はなにをしているのだ。
状況がよくわからないフロドがパニックを起しかけたとき。
「やあ、目を覚ましたのかい」
懐かしい声が聞こえた。
ずっと聞きたくって仕方がなかったこの声。
間違えるはずはない、レゴラスだ。
フロドはパッと弾かれたように声のした背後を振り返った。
腕を組んで木に背を凭れた姿勢でレゴラスがフロドをみつめていた。
月の光を浴びた金色の髪がキラキラと光っていて、まるで辺りを照らしているようにさえ見える。
「レゴラス!?」
驚きに目を見張りフロドは叫んだ。
今の状況、レゴラスの登場、すべて夢かもしれない、と一瞬思ったが、
レゴラスと会えた喜びにそんなことはどうでもよくなってしまった。
「どうしたんです?いったい?これは・・・夢?」
フロドの問いにレゴラスはクスリと笑った。
「夢ではないよ、現実だ。私が君をホビット庄からここまで連れてきたんだ」
ゆっくりとレゴラスが近づいてくる。
はっきりと捕らえたその表情にフロドの記憶が蘇った。
突然夜中に訪ねて来た彼。
驚き、そして喜び、室内に招こうとしたあとの記憶がない。
腹に衝撃を喰らった覚えがあるから、意識を失わされたのだろう。
なぜ、そんなことを?!と問いかけられなかった。
今の彼の表情はあのときと変わっていない。
あのときは全然気がつかなかったが、レゴラスはなんて暗い目で自分をみているのだろう。
明るく朗らかで優しいレゴラスの欠片は今はひとつも残っていない。
表情も瞳の色も。
怖ろしいまでの絶望と怒り、そして哀しみに彩られている。
「どうしたんだい?フロド。なぜそんな目で私をみるんだい?」
にっこりと微笑んでいるのに、笑っているようにみえない。
ひしひしとした狂気が伝わってくる。
無意識にフロドは後づさった。
「なぜ逃げるの?恋人の私に会えて嬉しくない?」
レゴラスはフロドの横にしゃがみこむと瞳を覗き込んできた。
狂気が伝わってくるのにその理由がわからない。
「レゴラス・・・なんで?」
反対に問いかけてきたフロドに微かに自嘲の色を乗せた笑いを浮かべレゴラスはいきなり小さな躯を押し倒した。
「その理由を私に聞くの?」
レゴラスの躯の重みを感じながらフロドはあることに気がついて驚いた。
今まで気がつかなかった方がおかしいのだが、夢か現実かわからない状況でそこまで気が回っていなかった。
レゴラスの服と躯を滑り出した指の感触に、フロドは自分が衣服を身に着けていないことを知ったのだ。
「なっ!」
衣服を脱がせたのは間違いなくレゴラスだろう。
その彼の視線の先で眠った自分は全裸で地面に転がっていたのだ。
羞恥と怒りで身を捩る。
レゴラスの下から抜け出そうと試みるが、力の差は歴然。
逃げることが出来るはずはない。
ギッと睨みつけるが、レゴラスの表情に怒りが削がれる。
本当にレゴラスは変だ。普通じゃない。
彼のしていることも今の状況も理解できない。
だが、レゴラスが狂気に蝕まれていることだけは理解できた。
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