贖い
  
BY むぎ様
 
 


「すまぬ!!!」
モニターの向こうで土下座する侍は、画面からほとんど見切れて頭頂部しか見えなかった。
頬杖をつき煙草をくゆらせて、とりあえず頭を上げるのを待つ。一向に上がる気配がないので、聞いてやった。
「・・・・・・忘れてたのか。」
「いや!」
がばと起き上がった侍の顔が、やっと画面に現れた。半年ぶりの五右ェ門は、髭ぼうぼうの半ベソ顔で、いつもの凛々しさは見る影もない。
「わ、忘れてはおらぬ。ただ、ちと修業に身が入り過ぎたのだ。それで、気がついたら・・・・・・、」
気がついたら、約束した逢引の日は今日だった、という訳か。
必死で言葉を探したのち、侍はとうとうがくりとうなだれた。
「・・・・・・忘れていたのと同じことだ。すまぬ。本当にすまぬ、次元。」
「・・・・・・。」
ふう、と煙を吐き、灰を落とす。画面いっぱいに映った真っ黒な頭に向かって、声をかけた。
「―――元気だったか。」
「・・・・・・うむ。」
「顔見せろよ。」
「・・・・・・。」
そろそろと五右ェ門が顔を上げる。最近のインターネットは大したものだ。地球の反対側にいる相手の顔を見ながら、まるで今同じ場にいるかのように喋れるのだから。修業の妨げになるというので、別れて以来、これを使うのは初めてだった。
「・・・・・・こっち来い。」
指で招くと、素直にカメラに近寄ってくる。
「少し痩せたか?」
「・・・・・・かも、しれぬ。」
頬のラインに沿って、モニターを指でなぞった。五右ェ門はこちらを見つめ、じっとしている。画面の無機質な硬さに、思わずため息が出た。
「・・・・・・見ちまうとやっぱ駄目だな。」
「次元?」
「触りてえ。―――五右ェ門。」
「・・・・・・。」
侍の眉が歪む。また詫びを口にするのかと思ったら、手が伸びてきた。画面より下の方、そこには多分自分が映っている。帽子を取り顔を晒して、次元はぺたぺたと触る恋人を見つめた。
ひとしきり触れたのち、侍もため息をつく。
「どうだ、虚しいだろ。」
「うむ。」
画面から手を離し、五右ェ門は再び頭を下げた。
「許してくれ次元。この埋め合わせは必ずする。」
「―――埋め合わせか。」
吸い殻を灰皿に押し付けて、呟いた。
「今でもいいか?」
「今? しかしここでは・・・・・・、」
「脱いでくれ。」
「!?」
よほど仰天したらしい。椅子がガタッと音を立てた。カメラから少し遠ざかったが、侍が赤くなったのははっきりと分かる。
「いや、次元、それは・・・・・・!」
「まあ、嫌ならいいさ。」
「―――、」
再び頬杖をついて、侍を見やった。余裕のある素振りはカモフラージュだ。声を聞きその顔を久々に見た今、火のついてしまった気持ちをコントロールすることができない。五右ェ門。頼む。焦燥を気取られないように次の煙草へ手を伸ばした、その時だった。
しゅる、と音がした。
「―――!」
画面の中で、帯を解いた五右ェ門が、袷に手をかけためらっている。
「五右ェ門・・・・・・、」
「・・・・・・。」
無言のまま、侍がこちらを見つめた。罪の意識と懺悔と羞恥心、それにほんの少しだけ次元をなじる気持ちが、その視線に入り混じっている。ゾクゾクした。なるべく静かな声を出した。
「―――開いて、見せてくれ。」
「・・・・・・、」
一瞬次元を睨んだのち、侍は目を伏せた。ゆっくり開く袷から現れた桃色の乳首に、思わず喉を鳴らす。
「つまんでみろ。」
「次元―――、」
「頼む。」
「・・・・・・!」
もう五右ェ門は耳まで真っ赤だ。袷から手が離れ、胸の中心にへ向かってそろそろと動く。ためらいながら、指が、そっと乳首をつまんだ。やらしい。興奮を隠せない。
「・・・・・・舐めてえ。五右ェ門。」
「!」
「指で転がしてみろ。俺がいつも舌でやってるみたいに。」
「・・・・・・!」
さっき見た半ベソよりもっとひどい顔で、それでも侍は次元の言ったとおりに指を動かし始める。ためらうように弄る侍の人差し指の下で、ほとんど平らだった乳首がだんだん勃ち上がってきた。
「ピンピンになったな。気持ちいいか。」
「よくない。」
「俺がやる方がいいか。」
「・・・・・・、」
今や侍はあからさまに次元を睨んでいた。口をへの字に曲げ、睨む目をぎゅっと瞑ったかと思うと、一つだけ頷いた。
「―――そうだ。」
「・・・・・・!」
―――五右ェ門。今ほどお前を恨んだ時はないぜ。
がくりとうなだれ、肩を震わせている次元に、侍がおずおずと声をかける。
「・・・・・・じ、」
「立て。五右ェ門。」
顔を上げ、言い放った。
「・・・・・・!」
拒絶を表わしかけた唇が、次元のまなざしに気圧されたようにつぐむ。拳を握り締めて立ち上がると、帯を解いてあった袴がすとんと落ちた。侍の腹から下だけを捉えるモニターに、白い褌の屹立がはっきりと映っている。
「もうそんなにしてたのか。」
「・・・・・・、」
「苦しいだろ。出しな、五右ェ門。」
「・・・・・・!」
握られた拳が、一、二度揺れた。やがて褌を掴み、ぐいと横に引く。飛び出した劣情の塊が、待ち兼ねたようにひくひくん、と首をもたげた。
「して、見せてくれ。」
「次元!」
「ほら、よだれが垂れてきたぜ。早く。」
「うぅ・・・・・・、」
ずらした布を押さえたまま、もう片方の手が勃起したものを握り込む。途端に透明な液がくぷくぷと溢れた。
「しごいてみな。」
「・・・・・・。」
握った手は動かない。どうしても思い切れないのだろう、腹だけが息を整えるように上下した。何度か大きく吸った後、とうとう手が、先端へ向かって滑り出す。くちゅ、と上がった卑猥な水音も、時を経ずして混じり始めた荒い息も、マイクは余す所なく全部拾った。瞬きするのも忘れ、次元は画面を見つめる。侍の切ない声が上がった。
「次元ん・・・・・・!」
「俺だって、しゃぶってやりてえよ!」
ほとんど泣くような声が、マイクを通して届いたのだろう。侍の手が早くなった。どちらも頭のネジがもう飛んでいる。
「膝上げろ五右ェ門、そう、片脚机に乗せるんだ。尻の穴ひらけるか? すげ・・・・・・、・・・・・・指、指挿れてみろ。」
矢継ぎ早の指示に逆らいもせず、侍は従順に従った。拡げられた穴が、長い指を少しずつ飲み込んでゆく。奥まで入りきると、指はためらいながらずぼずぼと抜き差しし始めた。ここまで淫らな姿を晒してみせるのが詫びの一心からなのか、他の何かによるものなのか、正直次元には分からない。少なくとも自分の頭からは、つぐないだの何だのは消えていた。侍の指の動きが、どんどん早さを増してゆく。
「次元っ、じげ・・・・・・!」
画面いっぱいに映された侍の陰嚢がくくっと吊り上がり、絶頂の近いことを告げている。自らの穴を貪る罪深い指が、もう一番深いところをえぐっている。これ以上エロい光景はないと思うのに、次元は叫んでいた。
「座れ、五右ェ門!」
「・・・・・・!?」
驚いた侍の手が止まる。机の縁に引っかかっていた膝が外れ、ふにゃりと侍は椅子に崩れ落ちた。汁まみれの恥ずかしい部分は机の陰に隠れ、代わりに戸惑う侍の顔が画面に映る。
「・・・・・・?」
「それでいい。そのまま、イくとこ見せてくれ。」
「・・・・・・。」
手の甲で涙を拭い、侍が次元を見る。しばらく二人見つめ合った。ぐしゃぐしゃの顔が近づいてきたかと思うと、フレームの外へ消える。見えないが、次元には分かる。
いま自分は、侍に接吻されている。
こんなにいじらしい恋人を、抱き締めてやることができないなんて。両膝が壊れるくらい強く掴んだ。乗り出した体を再び椅子に納め、侍が机の下へ手をやる。あの音が再び聞こえてくる。
「―――顔上げろ、五右ェ門。」
快感にどうしても前屈みになってゆく侍に、その都度声を掛けた。顔だけ見えればいい。あとはこの際見えなくてもいい。
恍惚として侍は手を動かし続ける。ちゃんと尻にも挿れてるか?と聞こうとして、やめた。表情で分かる。
「じげ・・・・・・ん・・・・・・!」
再び絶頂を迎えた侍が、許しを乞うように次元を見る。頷いてみせると、派手な喘ぎが漏れた。
「あ・・・・・・ああぁ・・・・・・!」
机の下から、白い飛沫が上がる。のけぞった喉元までそれは飛び、侍の肌をつつ、と伝い下りた。
「―――よかったか?」
ガタンと椅子を引き、侍に尋ねてやりながら次元は立ち上がる。まだ半分呆けたような顔が、少し面食ってこちらを見た。
「どこへ行く次元、お主は・・・・・・、」
よいのか?と問う侍の視線から体を背け、自分の前を隠した。
「ああ、俺はいい。今から行くからな。」
「どこへ?」
「そっちさ。」
「!?」
仰天した侍が、自分の淫らな格好も忘れて身を乗り出す。
「今から!? ここは日本だぞ。」
「ルパンのジェット機を借りるさ。シカゴからなら10時間くらいだろ。電源切るぞ。」
「次元・・・・・・、」
「たっぷり詫びてもらうからな。待ってろ。」
「・・・・・・。」
息を呑み、それからおもむろに五右ェ門は口を開いた。
「―――分かった。覚悟しておく。」
「俺が行くまで一人で続きするなよ。」
「するものか。しかしお主は、抜いておいた方がよいのではないか。」
「・・・・・・。」
見えてたのか。頭をかき、次元は言った。
「まあ、こういうのを抱えて行くのもいいさ。じゃ、後でな。」
「・・・・・・。」
「シャットダウン」をクリックする瞬間、侍は確かに言った。
「早く来い」と。
まったく、敵わねえな。
帽子を引っ掴み、部屋の照明を落とす。ほどなくして上がったコンピュータの終了音を、派手なエンジンの音が掻き消した。

シカゴの夜が、馬鹿な二人を笑っている。





    

 ■むぎさま■
 
ちょっと所用があってむぎさんとスカイプの約束をしたんですよ。
でも時間になっても現れず心配してたら1時間半後に「寝てた!」と(^ー^)
 この小説はそのお詫びなのです。
つうか、ペナルティーに次五SSを要求したのは私なのですけどネv
すっぽかされてラッキー!←オイ

つうか、テレセネタはよく見るけど、これはなかった!
スケイプ映像越しのHって、なんですかソレ萌える!!
これってなんていうんだろ。スカイプ○ックスで「スカセ」?TV電話○ックスで「テレテレセ」?
むぎさんはスカイプだから「セクイプ」かなって言ってたけど、どっちにしても新語ですよね(笑)

画面越しでお互いもどかしい感じがいいですね。
相手の顔は映ってる冷たいディスプレイを撫であうなんて堪らんv
それにしてもまさか五右エ門がアナニーまでしちゃうなんて。
それを画面越しに視姦って、次元にとってどんな焦らしプレイですかv
局部もいいけど顔の方が見たいっていう次元には賛成ですv
いいなー、次元。私も五右エ門がイクとこ見たいvv

次元の言うとおりに流されちゃってもやっぱちゃんと漢な五右エ門と余裕がありそうでない次元。
むぎ節のジゲゴエロを御馳走様ですv




むぎさま、素敵小説をありがとうございました!
 
 
 

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